3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜
それから、何も聞こえなくなり放心状態と化していると、程なくして通話は終わったようで、瀬名さんはバツが悪そうに携帯をポケットにしまって、こちらに視線を向けてきた。

「…………あ、せ、瀬名さん恋人がいらっしゃったのですね」

このまま何も言わないのもかなり不自然なので、本当は触れたくはなかったけど、私は涙が溢れ落ちそうになるのを何とか堪えがら精一杯の作り笑いを見せる。

「うん、ていうか婚約者かな。何れ職場にも話すつもりだったけど、俺もうすぐ結婚するんだ」

それから、こちらの心境なんて全く知りもしない瀬名さんは更に残酷なことを、これまたとても幸せそうな表情で言って退けてきて、私はもう耐えるのに限界を感じ始めてきた。

「……そ、そんなお方がいらっしゃるなんて。……ぜ、全然知りませんでした」

絶望の淵に立たされた私は、何とか平静を装ってみたものの、絞り出した声は震えてしまい、終いには体までも震えてくる。

「出会ったのは二年前くらいかな?とあるイベント会場に行ったら彼女が一人ベンチで泣いててさ。俺も訳あってそこに一人で行ったんだけど、そんな彼女を見てたら何だかほっとけなくて……。そこで、色々話を聞いたんだ」


意識が朧げになりながらも瀬名さんの馴れ初め話を聞いたところ、どうやら紫織さんという女性はお別れした方がどうしても忘れられず、思い出のイベント会場で一人苦しんでいたとか。

そして、瀬名さん自身も数年前に交通事故で恋人を亡くしたようで、過去にお二人で行った場所へと赴いたら、偶然にも自分と境遇が似ている方と出会い、そこから進展したんだとか。

月日が流れても過去の大切な人はお互い今でも消えることはないそうだけど、それ以上に大切だと思えるようになり、掛け替えのない存在になったと瀬名さんはとても嬉しそうに話してくださった。
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