3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜
◇◇◇


__それから数時間後。


最後のデザートを食べ終わってからも暫く会話をしていると、割と閉店時間が早めのお店だったようで、次から次へと人が居なくなっていく状況に、私達もここでお開きにしようとお店を後にする。


「瀬名さん、今日はお誘いして頂いて本当にありがとうございました。お陰でとても楽しかったです」

お店を出た直後、私はとても充実した時間を過ごせたことに感謝の気持ちを伝えたくて、頭を下げる。

結局、桜井さんの話にあった次の機会に繋がるような話題は何もなかったけど、それ以上に瀬名さんと沢山のお話が出来たので、私はそれで十分だった。


「俺も天野さんと話すの凄く楽しかった。同期だけど、ずっと違う職場だったから、今までこんなに話す機会なかったしね」

どうやら瀬名さんも私と同じ心境でいて下さったようで、その言葉が聞けただけでも天にも昇るような気持ちになり、再び鼓動が激しく脈打つ。


こうして最後まで幸せなひと時を堪能しながら、駐車場へと向かおうとした時だった。


突然瀬名さんの携帯の着信音が鳴り出し、車に乗り込む手前で私達は立ち止まる。


「ごめん、ちょっといいかな?」

「ええ。勿論お構いなく」

ポケットから携帯を取り出し、着信相手を確認した後、瀬名さんは申し訳なさそうな目でこちらを見てくるので、私は笑顔で電話に出るよう促した。


「……うん、丁度今終わったとこ。…………そうだね。何とか大丈夫そうだったから安心した」

人の会話を盗み聞きするつもりはないのだけど、この至近距離なのでどうしたって全部聞こえてしまう状況に申し訳なさを感じていると、何やら私の事を話しているようで、いけないと思いながらも全神経がそこに集中する。

「あはは、君がそこまで心配しなくてもいいから。……うん、これからも同期としてフォローしていくよ。……っあ、紫織は今欲しいのある?帰りに何か買ってこようか?」

そして、最後の会話に私は雷が打たれたような衝撃を受け、思わず目を見開いて瀬名さんを見上げてしまった。


今確かに聞こえた。

“紫織”という女性の名前。

聞き間違いであって欲しいと思ったけど、はっきりと耳に残ったその単語はそうではないと確信させる。


一瞬家族の誰かなのかとも思ったけど、電話越しで会話をする瀬名さんの表情は今まで見たことないくらいに幸せそうで、若干頬が染まっているような気がする。

その姿を見れば、いくら恋愛経験皆無の私でも分かる。


今瀬名さんが話している相手は、紛れもなく恋人であると。
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