3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜
「そ、それはマッサージがお気に召したという事でよろしいですか?」

もしかしたら、それ以外の意味も含まれているかもしれないという淡い期待を抱くも、今深く考えてしまうと集中力が途切れそうになるので、私は余計な考えを振り払い、その場を誤魔化すように作り笑いを浮かべる。

「…………さあな」

それなのに、遠い目をしながら少し間を空けた後の返答に、私の心は益々騒めき出す。


どうせなら、はっきりとそうだと仰って欲しかった。

そうすれば、今自分が思っていることが只の勘違いだったと思えるのに。

そんな曖昧な言葉では、この溢れ出てくる愛しい気持ちをどう食い止めれば良いのか、分かりません。


楓様に関われば関わる程に、深くなっていく好きという気持ち。

バトラーとして精一杯尽くしたいのに、その度に自分の首をどんどん締めていく。

本当に、私はこのままだと一体どうなってしまうのでしょうか……。


そんな高揚と不安が入り混じる中でマッサージを続けていると、どうやら睡魔に襲われてきたのか。楓様は船を漕ぎ出し始めたので、私は手を止め、倒れそうになる彼を支える為に慌てて隣に座る。

「楓様、もうお休みになりましょう。今日は早く就寝された方が……」

「う……ん」

眠りに落ちそうになる前に体を軽く揺するも既に遅かったようで、脱力した楓様の頭が私の肩に突然もたれ掛かってきた。

「……!?」

私は声なき声で叫ぶと、そのまま石像のように固まってしまう。


まさか、今度はこんな密着した状態で眠ってしまうとは。
しかも、前回よりも更に近くにある楓様の寝顔に、全身湯気が出る程の熱が一気に帯び始めていき、私の頭はパニック状態だ。


……ど、どうしましょう。

流石にこれは起こした方がよろしいのでは。


そう思い、もう一度体を揺すろうと試みるも、とても気持ちよさそうに寝息を立てる楓様のお顔を見ていると何だか気が引けてしまい、私は伸ばした手をそのまま引っ込めてしまった。


とりあえず、もう暫くはこのままで良いかもしれない……。

そして、心の奥に潜む欲望の声に負けてしまった私は、大胆にも自分の頭を楓様の頭にそっと重ねた。

こうして静寂な空気が流れる中、全身で楓様の温もりを感じ、鳴り響く鼓動の中、幸せのひと時を噛み締める。


……ああ、こんなことをしてしまってはいけないのに。

人の隙を付いてくるなんて、私は何とも浅ましいのでしょう。


そんな自分を嘆かわしく思いながらも、一方でどんどんと根をはっていく欲望は自制しようとする気持ちを押しつぶしていき、心全体を張り巡らせていく。


もう、これでいいかもしれない。

例え、泉様の忠告に背いてしまう事になっても、それによって破滅の道を辿る事になってしまうとしても……。

楓様が少しでも喜んでくださるのなら、自分がどうなろうと構わない。

楓様の体温によって益々溺れ始めていく思考回路を止める事が出来ず、私は満たされていく愛情にそのまま身を委ねる。


「……好きです楓様。許される事なら、私はあなたのお側でずっと尽くしていきたいです」

それから、聞こえていないのを良いことに、楓様に向かって囁くように自分の正直な気持ちを初めて口にした。


結果的に自分の首を絞めようとも。

苦しみに呑まれてしまっても。

もう、この気持ちを抑えることなんて不可能だから……。


それならば、いっそのこと堕ちるところまで堕ちてしまえばいい。


それぐらいに、今の私はもう楓様でいっぱいになってしまったのですから……。
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