3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜
◇◇◇
「遅かったな。何してんだよ」
ようやくお部屋へ向かうと、思ってた以上に時間が経っていたそうで、バスローブ姿の楓様はソファーに座り煙草を口に咥えながら、待ちくたびれたように顰めっ面で私を睨んでくる。
「申し訳ございません。ちょっと立て込んでしまいまして。……あの、いつものでよろしかったですか?」
部屋に充満する煙草の匂いと煙につい顔が歪みそうになるのを何とか堪え、とにかく、バトラーとして到着に遅れてしまったことに私は深く頭を下げた。
「それもそうだけど、とりあえず疲れたからマッサージ」
そう仰ると、楓様は深い溜息を吐き、煙を吹かせながら脱力したようにソファーにもたれかかって要求してきた内容に、私は大きく頷く。
「分かりました。それなら今すぐ手配し……」
「いらない。お前が今ここで肩を揉め」
すると、私の返答を遮断するように被せ気味に言い放ってきた命令に、その場で硬直してしまう。
「何突っ立てるんだ?それぐらい出来るだろ。早くやれよ」
なかなか動こうとしない私に痺れを切らしたのか。またもや不機嫌そうな顔を向けてぶっきらぼうに指示する姿を見ると、あの宴会場で振る舞っていた社交的な態度は夢だったのではないかと思えてしまう。
「は、はい。ただいま」
とりあえず、このままお待たせする訳にもいかないので、私は慌てて楓様の後ろへと回った。
同時に油断していたせいで煙草の煙を思いっきり吸い込んでしまい、つい咳き込んでしまう。
そんな私を見た楓様は、急に咥えていた煙草を口から離すと、灰皿で押し潰して火を消し始めた。
「楓様?お煙草吸われてて大丈夫ですよ?」
まさか、私に気を遣って下さったのか。ただの自惚れなのかもしれないけど、このタイミングで火を消したのが偶然にも思えなくて、私はおずおずと尋ねてみる。
「また咳き込まれると気が散るからな。良いから、さっさとしろ」
やはり気を遣って下さったようで、言葉はどうあれ、まさかの配慮に胸が熱くなる。
「それでは、失礼しますね」
ひとまず、私は気持ちを落ちつせるため、気付かれないように小さく深呼吸をすると、楓様の肩に手を置いてゆっくりと揉み始めた。
肩揉みは昔良く両親や親戚にしてあげたので、私の得意分野でもある。
その度に皆さん喜んで下さっていたので、腕に自信はあるけど、果たして楓様は喜んでくださるでしょうか。
それに、身内以外の男性の肩を揉むのは初めてだし、ましてやお相手が楓様となると、普段よりも上手く出来ないかもしれない。
そんな不安を抱えながら、私は全神経を集中させ、鼓動を鳴り響かせながら自分の中で精一杯の技を駆使して、凝り固まった楓様の肩を揉む。
「……力加減はどうですか?足りなかったら仰ってくださいね」
先程から無言のままマッサージを受けている様子に、これで良いのか心配になった私は楓様の横顔を覗き込んだ。
「そのままでいい。……あんたも、今日一日駆け回っていたのに、良く働くよな」
……なんということでしょう。
またもや楓様にご配慮頂けるとは。
今まで私のことなんて見向きもしなかったのに、急にこんなことを仰ってくるなんて、先程から不意を突かれてばかりです。
楓様の優しさに慣れない私は、内心どぎまぎしながらも平静を装って手を動かし続ける。
「ホテルマンは駆け回るのが日常茶飯事ですから全然平気です。それよりも、今日は楓様の方がお疲れなのですから、それを癒すお手伝いが出来るなら喜んで何でも致しますよ」
本当に、これまでのことを振り返ると、懇親パーティーから今に至るまで楓様の振る舞いには脱帽してしまう。
体裁の為に自分を憎む家族と仲の良い振りをしたり、周囲に後ろ指を差されながらも笑顔を振り撒いて接待したり。
ご自分の立場を理解して政略結婚を円滑に進めようとしたり、泉様のお相手をしたり……。
今まで横暴な方だと思っていたのに、今日一日で東郷グループの御曹司として振る舞う楓様の姿に、改めて圧倒された。
だから、そんな方に尽くす為なら何だってする。
それで少しでもお役にたっているのだとしたら、今日の疲れなんて全部吹き飛んでしまう。
そんな想いを込めて、私は楓様に自分の気持ちを正直にお伝えした。
「……なんだろうな……」
すると、ポツリとそう呟いた楓様はそのまま視線を下へと落として黙り込んでしまい、私は心配になり再び顔を覗き込もうとした時だった。
「同じ女なのに何であんたに触れられると、こんなにも心地良いんだろう……」
不思議そうな面持ちで仰った楓様の言葉が、心の奥底にまで響いてきて、思わず一瞬手が止まってしまった。
「遅かったな。何してんだよ」
ようやくお部屋へ向かうと、思ってた以上に時間が経っていたそうで、バスローブ姿の楓様はソファーに座り煙草を口に咥えながら、待ちくたびれたように顰めっ面で私を睨んでくる。
「申し訳ございません。ちょっと立て込んでしまいまして。……あの、いつものでよろしかったですか?」
部屋に充満する煙草の匂いと煙につい顔が歪みそうになるのを何とか堪え、とにかく、バトラーとして到着に遅れてしまったことに私は深く頭を下げた。
「それもそうだけど、とりあえず疲れたからマッサージ」
そう仰ると、楓様は深い溜息を吐き、煙を吹かせながら脱力したようにソファーにもたれかかって要求してきた内容に、私は大きく頷く。
「分かりました。それなら今すぐ手配し……」
「いらない。お前が今ここで肩を揉め」
すると、私の返答を遮断するように被せ気味に言い放ってきた命令に、その場で硬直してしまう。
「何突っ立てるんだ?それぐらい出来るだろ。早くやれよ」
なかなか動こうとしない私に痺れを切らしたのか。またもや不機嫌そうな顔を向けてぶっきらぼうに指示する姿を見ると、あの宴会場で振る舞っていた社交的な態度は夢だったのではないかと思えてしまう。
「は、はい。ただいま」
とりあえず、このままお待たせする訳にもいかないので、私は慌てて楓様の後ろへと回った。
同時に油断していたせいで煙草の煙を思いっきり吸い込んでしまい、つい咳き込んでしまう。
そんな私を見た楓様は、急に咥えていた煙草を口から離すと、灰皿で押し潰して火を消し始めた。
「楓様?お煙草吸われてて大丈夫ですよ?」
まさか、私に気を遣って下さったのか。ただの自惚れなのかもしれないけど、このタイミングで火を消したのが偶然にも思えなくて、私はおずおずと尋ねてみる。
「また咳き込まれると気が散るからな。良いから、さっさとしろ」
やはり気を遣って下さったようで、言葉はどうあれ、まさかの配慮に胸が熱くなる。
「それでは、失礼しますね」
ひとまず、私は気持ちを落ちつせるため、気付かれないように小さく深呼吸をすると、楓様の肩に手を置いてゆっくりと揉み始めた。
肩揉みは昔良く両親や親戚にしてあげたので、私の得意分野でもある。
その度に皆さん喜んで下さっていたので、腕に自信はあるけど、果たして楓様は喜んでくださるでしょうか。
それに、身内以外の男性の肩を揉むのは初めてだし、ましてやお相手が楓様となると、普段よりも上手く出来ないかもしれない。
そんな不安を抱えながら、私は全神経を集中させ、鼓動を鳴り響かせながら自分の中で精一杯の技を駆使して、凝り固まった楓様の肩を揉む。
「……力加減はどうですか?足りなかったら仰ってくださいね」
先程から無言のままマッサージを受けている様子に、これで良いのか心配になった私は楓様の横顔を覗き込んだ。
「そのままでいい。……あんたも、今日一日駆け回っていたのに、良く働くよな」
……なんということでしょう。
またもや楓様にご配慮頂けるとは。
今まで私のことなんて見向きもしなかったのに、急にこんなことを仰ってくるなんて、先程から不意を突かれてばかりです。
楓様の優しさに慣れない私は、内心どぎまぎしながらも平静を装って手を動かし続ける。
「ホテルマンは駆け回るのが日常茶飯事ですから全然平気です。それよりも、今日は楓様の方がお疲れなのですから、それを癒すお手伝いが出来るなら喜んで何でも致しますよ」
本当に、これまでのことを振り返ると、懇親パーティーから今に至るまで楓様の振る舞いには脱帽してしまう。
体裁の為に自分を憎む家族と仲の良い振りをしたり、周囲に後ろ指を差されながらも笑顔を振り撒いて接待したり。
ご自分の立場を理解して政略結婚を円滑に進めようとしたり、泉様のお相手をしたり……。
今まで横暴な方だと思っていたのに、今日一日で東郷グループの御曹司として振る舞う楓様の姿に、改めて圧倒された。
だから、そんな方に尽くす為なら何だってする。
それで少しでもお役にたっているのだとしたら、今日の疲れなんて全部吹き飛んでしまう。
そんな想いを込めて、私は楓様に自分の気持ちを正直にお伝えした。
「……なんだろうな……」
すると、ポツリとそう呟いた楓様はそのまま視線を下へと落として黙り込んでしまい、私は心配になり再び顔を覗き込もうとした時だった。
「同じ女なのに何であんたに触れられると、こんなにも心地良いんだろう……」
不思議そうな面持ちで仰った楓様の言葉が、心の奥底にまで響いてきて、思わず一瞬手が止まってしまった。