3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜

それから月日が経ち、成長していく過程で、俺はやけに女に騒がれるようになっていた。

周りいわく男には珍しくかなり綺麗な顔立ちらしく、確かに俺も以前ふと鏡を見た時、まるで母親を見ているような錯覚を覚えたことがある。

それぐらいに俺は母親とそっくりな中性顔になり、ある日親父にもポツリとそう言われたことがあった。

女みたいな自分の顔はあまり好きではないけど、母親の面影が残っているので、そこまで嫌いではなかった。

しかし、それが更に義理母に追い討ちをかけていくようで、今まで顔くらいは合わせていたけど、その内目も合わせてくれなくなり、文字通り俺を見ることはなくなった。

親父も母親を思い出してしまうのか。昔よりも俺を避けるようになり、兄貴には相変わらず何も相手にされる事はなく、どんどんと自分が東郷家にとって空気のような存在となっていったのだった。

そんな中で、進学するにつれて本格的に考えるようになっていく自分の進路。

けど、この家に引き取られた時から自分の道は既に決まっているので、考える必要もない話だが、当時の俺はその命運がとても嫌だった。

いくら国内屈指の財閥だと言っても、こんな家の跡なんて継ぎたくはなく、自立したら周りに反対されようが真っ先にこの家を出ていこうと決めていた。

そう思っていたのに、その考えが覆ったのは、兄貴に言われたある言葉がきっかけだった。


俺と兄貴は歳が四つ違いで学年が離れているので、勉強する過程は異なるけど、これまでのテストの点数は大体俺の方が上なので、おそらく兄貴は密かに俺をライバル視していたのかもしれない。

それが顕著に現れたのは、同じ検定試験を一緒に受けた時だった。

その試験は難易度がかなり高く、俺はお試し程度で受けたつもりだったのに、何故か合格してしまい、一方かなり必死で勉強していた兄貴は落ちてしまった。

その結果通知を同時に見た瞬間、今まで抱え込んでいたものが爆発したように兄貴は突然俺の胸ぐらを掴んできたのだ。

「お前がどんなに優秀だとしても、この家にいる以上、所詮親父の浮気相手から産まれた汚れた存在にしか過ぎないことを忘れるなよ」

そして、憎しみを込めて吐き捨てられたその台詞に、俺は一瞬呆気にとられたが、その内段々とその姿が滑稽に思えてきて小さく笑い出す。

その時まではこの家から逃げることばかり考えていたけど、俺に負けて悔しがる兄貴の顔を見た瞬間、俺の中での復讐心に火がついた。

これがもっと大規模な話だったら。
この家系全体を揺るがすようなものだったら。

俺がどんな生い立ちであったとしても、今は正式な東郷家の跡取りである以上、俺にも代表になる資格はある。
だから、これからも兄貴以上の成績を収めていけば、それが実現する可能性があるということ。

もし、そうなったとしたら。この俺がこの家を掌握することになったら、一体こいつらはどんな顔をするのだろうか。そこから見る眺めは、一体どれ程に素晴らしいものなのだろうか。

そう思った瞬間、今までにない程にやる気に満ちていき、堪らなく面白くなってきた。

「……ああ。上等だよ」

だから、そんな気持ちを込めて、不敵な笑みを浮かべながら俺は兄貴にそう言い返した。

今思えば、あれが兄弟間での初めて面と向かって交わした会話だったかもしれない。


こうして、兄貴のお陰で俺は自分が生きる意味を見つけることが出来て、その価値を証明するために、今まで以上に勉強を頑張った。


別に認められなくていい。そのうち、認めざるを得ない存在になってみせる。

そして、この家の人間に絶望を与えてやる。

そう決意が固まった時、俺はここに来てようやく自分の人生に興味が湧いてきた。


人並みの幸せ。そんなものはどうでもいい。

ただ、自分の目的が達成できれば、俺はそれだけでもう十分だった。


そう信じ続けて、大学を卒業し、東郷グループの会社に就職してからはひたすら躍起になって働いた。
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