3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜



チェックインの時間帯となり、夕刻時を過ぎて忙しくなってくるフロント。

今日は宿泊数が多く、絶え間ないルームサービス提供から戻ってきた頃、何やらフロントの方から騒々しい声が聞こえ、不安に思い足早に向かう。

すると、そこでは中年女性のお客様と女性従業員が何やら揉めていた。


「予約されてないの?私ちゃんと予約ボタン押したはずなんだけど!」

「申し訳ございません。恐らく何かしらのエラーで予約確定がされなかったのだと思います」

「えー?何それ!?じゃあ私が悪いってこと?そもそも、こんな分かりにくいシステムなのがいけないんでしょ?てか、どうすんのよ?私今日泊まるとこないわけ?」

どうやら、稀に起こるシステムエラーによる予約ミストラブル。

普通なら予約完了時に確定メールが来るはずなので、大概の方はそこで気付くけど、機械が苦手な方だと知らずに時たまこういう事が起こる。

そして、必ずと言って良いほど逆ギレをされてしまう。

今日はスイートルームは満室なので、スタンダード部屋にご案内する訳にもいかず、一体どう対処するのか固唾を飲んで見守っていた時だ。


「お話中のところ失礼致します。只今確認したところ、当ホテルから徒歩三分くらいの同クラスホテルのスイートルームに空きがございまして、仮押さえ致しました。もしお客様が宜しければそちらはいかがでしょうか?」

すかさず瀬名さんが女性客と従業員の間に入り込むと、紹介したホテルのパンフレットを差し出し、とても穏やかな表情で救済措置を施してくる。

「っえ?……あ。そ、そうなのね。それじゃあ、そこでお願いしようかしら」

突然の瀬名さんの登場に、女性客は鬼のような形相から、一気にしおらしい表情へと変わっていく。

「ありがとうございます。受付にはお名前だけお伝えして頂ければ大丈夫です。あと、次回ご宿泊される際には、当ホテルお勧めのシャンパンサービスをご提供致しますので、次のお越しを是非お待ちしております」

「ええ、勿論!また宜しくお願いね」

それから、極めつけに瀬名さんの光り輝く笑顔を見せられ、恐らく完全に心を奪われた女性客は頬を染めながら大袈裟過ぎる程に首を縦に振り、かなり上機嫌でお帰りになられたのだった。
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