3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜


「……それじゃあ、そろそろ戻らないとな……」


暫くして、ようやく私の唇を解放した楓さんは名残惜しそうに寂し気な目でこちらを見つめてくるため、この無意識に母性本能をくすぐってくる彼の振る舞いは本当に心臓に悪い。

「これ、昨日の忘れ物。一応洗濯しといたから」

「ありがとうございます」

そして、ここにきてようやく本来の目的を果たし、私は笑顔で袋に入ったエプロンを受け取った。

「それと楓さん、今日は夕食はどうされますか?もし予定がなければ一応簡単に食べられるものをご用意してみたのですが……」

それから、テーブルに置いてあるホテルの冷蔵庫から持ってきた紙袋を手に取ると、それを恐る恐る彼の前に差し出す。

おそらく楓さんのことだから、夜遅くまで仕事をする時はきっとまともな食事をとることはしないのでしょう。

だから、合間につまめるよう、栄養面を考えておにぎりと簡単なおかずとサラダを勝手ながらに準備してきたのだ。

「押し付けがましいかもしれませんが、楓さんにはしっかりとした食事をとって頂きたいので……」

また無理をしてこの前みたく体調を崩すことにならないよう、今自分が出来る限りのことをしたくて、私は何とか理由をつけてみる。

すると、楓さんは何も言わず紙袋を受け取り、中身を除く。

その反応に、やはり迷惑だったのかと不安が募り始めていく中、こちらに視線を戻してきた楓さんの表情がみるみるうちに明るくなってきた。

「ありがとう。凄く嬉しい」

素直な感謝の言葉と一緒に向けられた、眩しい程の無邪気な笑顔。

そんな彼の表情が不安を一気に拭い去ってくれて、私も釣られて満面の笑みを彼に向けたのだった。
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