3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜
こうして、私達は応接室から出ると、楓さんは私を見送るために外の玄関前まで付いてきて下さった。

「お忙しいのに、ここまで来て頂いてありがとうございます」

若干周囲の……特に女性社員の視線が突き刺さってくるけど、私は気にすることなく楓さんに笑顔で軽く一礼する。

「美守だっていつも俺を見送るだろ?」

そんな私の感謝の気持ちに対して、楓さんは不思議そうな面持ちで首を傾げてきた。

「それは仕事で…………いえ。そうでしたね」

確かに始めはただバトラーとしての役目を果たしていただけかもしれないけど、いつしか自発的に彼を見送りたいと思っていた自分を思い出し、私は彼の問いかけに素直に応じる。

「それじゃあ、楓さん。あまり無理しないで、気をつけて行ってきて下さいね」

それから、これから海外へと赴く彼に向かって私は寂しい気持ちを何とか表に出さないよう気丈に振る舞う。

「ああ。帰ってきたらすぐ美守の所へ行くよ。その時はまた、目一杯俺をもてなしてくれよ」

「はい。もちろんです。楓様のお帰りを心よりお待ちしております」

そして、恋人であり専属バトラーでもある身として、双方の気持ちを込めて私は敢えて業務用の口調で返答した。



「…………あ」


その時、ふと楓さんの視線が私から外れ、突然険しい顔付きへと変わり、私は何事かと振り返ると、自分もそこで固まってしまった。


「君は……確かこいつの宿泊先の従業員だったな。こんな所でも一緒なのか?」

視線の先に立っていたのは、とても冷たい眼差しを向けてこちらを見据えてくる東郷竜司様と、その隣には秘書らしき若い女性の姿。

まさかこの場で鉢合うなんて夢にも思っていなかった状況に、私は何も言葉が出てこなくて冷や汗が流れ始める。

「別にどこで会おうと勝手じゃないですか?俺の専属バトラーなので」

一方、楓さんは全く動じることなく、盾となるように私と竜司様の間にすかさず立ちはだかった。

「バトラー……か。その割には、まるでプライベートで会っているようだな」

そんな楓さんの行動を面白おかしそうに眺めた後、思いっきり図星を突かれてしまい、私は小さく肩が跳ね上がってしまう。

「もしかして、その従業員にも何か狙いがあるのか?知ってるんだぞ。お前はその容姿を使って何人もの女を利用目的で抱いているのを。どれだけの人間を欺いてきたのかもな」

しかも、不敵な笑みを浮かべながら悪意を込めて楓さんに向けた竜司様の言葉があまりにも衝撃的過ぎて、私は驚いた目で彼を見上げる。

「そうですね。けど、彼女は違う。その辺の奴らと一緒にしないでくれませんか?」

すると、楓さんはあっさりと認めた途端、声色が一変し、今までに見たことがない程の憎しみが込もった表情で竜司様を睨みつける。

「驚いた。お前がこんな感情的になるなんてな……。まさか、本気なのか?」

そんな彼の反応に竜司様は一瞬目を丸くさせた後、射抜くような鋭い目を眼鏡の奥から光らせ核心をつく一言を言い放った。

「はい。俺は彼女を愛しています」

しかし、楓さんはそれを誤魔化すどころか直球で自分の気持ちを躊躇うことなくぶつけてきて、私は開いた口が塞がらなかった。 

竜司様に私達の関係を堂々と暴露したのもそうだけど、ここで初めて楓さんから“愛している”という言葉を聞けた驚きの方が大きく、こんな緊迫した状況なのに、胸が高鳴ってきてしまう。

「……お前がそんな言葉が言う日が来るなんてな。それに、それがどういう意味を示しているのか理解しているんだよな?」

「勿論、覚悟はしていますよ」

それから、挑発的な竜司様の発言に対して、毅然とした態度で即座に言い返す楓さん。

その姿に一瞬見惚れてしまうも、不穏な意味が込められた二人の会話に、私は緊張感が襲ってきて思わず生唾を飲み込んでしまう。


暫く歪み合うようにお互い微動だにせず、張り詰めた空気が二人の間に流れ、沈黙が続く。

それを先に破ったのは鼻で笑ってきた竜司様で、口元を緩ませながら一歩近づくと、楓さんの肩に手を置いた。

「まあ、何でもいい。どっちに転んだとしても、お前はまた何かを失うことになるのだろうからな」

そして、蔑むような目を向けると、歪んだ表情でそう吐き捨てから、この場を後にしたのだった。
< 219 / 327 >

この作品をシェア

pagetop