3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜
出来ることならずっとこうしていたい。

何回抱き締めても、キスしても、その時は良いかもしれないけど離れたらまた枯渇していく。

もしいつか、ずっと一緒になることが出来たら、きっとこの物足りなさはなくなっていくのかもしれない。


そんなことを想像をしていると、ふと蘇ってくる竜司様の言葉。

私は楓さんが側にいてくれるだけで全てが満たされるけど、彼は果たしてそうだと言えるのだろうか。

私と恋仲になる前は東郷代表も楓さんも政略結婚を強く望んでいらっしゃった。
きっとそれだけ泉様の家の力は強力なものなのでしょう。

そんな力を手放す事になったら、彼の立場は一体どうなってしまうのか。
復讐の為にこれまで積み上げてきたものはどうなってしまうのか。

今更な話なのはよく分かっているけど、それでも何だか私達のこの関係がフェアではない気がして段々と不安になっていく。


「……楓さん。私は楓さんにとって足枷になっていませんか?」

だから、十分過ぎるくらい愛して頂いているのに、自分の存在によって彼の野望を損なわせてしまうのが今になって怖くなり始めてきて、私はその想いをつい口にしてしまった。

「急にどうした?……もしかして、あいつの言葉を気にしてるのか?」

甘い空気が流れる中、唐突に投げられた私の質問に楓さんは一瞬面を食らった後、少し不機嫌気味な声で聞き返した事に、私は無言で首を縦に振る。

それから楓さんは暫く口を閉ざしてから深い溜息をはくと、不意に私の顎を引いて無理やり視線を合わせてきた。

「お前こそ余計な心配はやめろ。あいつは何も分かっていないだけだ」

そして、とても真剣な目で私を見据えてきて、その眼差しに圧倒されてしまった私は何も言葉が出てこない。

「俺が欲しいと思うのはただ一つで、その時点で選択は決まっている。だから、失うものなんて何もないんだよ」

しかも、一寸の迷いもない真っ直ぐな思いをぶつけられてしまっては、もう平静を保つことなんて出来るわけがない。

「……楓さん」

彼の前で泣くのは止めようと決めていたのに、今の私には涙を堪えることは到底不可能で、その決意はいとも簡単に崩れ落ちてしまった。

「だから泣くなって。戻るに戻れなくなるだろ」

そんな私の涙を楓さんは長い指で優しく掬い取ってくれて、慈しむようにゆっくりと額に頬にと口付けを落としてくれた後、最後には唇に絡み付き、甘くて安らぎを与えてくれる優しいキスを啄むように角度を変えながら何度も繰り返してきた。

人前で堂々とこんなことをしているなんて、以前の私では到底耐えられなかったけど、今は公共の場であるということを忘れ、恥じらう気持ちさえも忘れさせてくれる程に、楓さんの熱に溺れていく。

それくらい私は彼に染まってしまったのだと実感する中、幸福感に浸りながら、暫く注ぎ込まれる愛を一身にその場で受け止めたのだった。
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