3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜


____数日後。


楓さんが渡航したタイミングで、国内では外国人観光客が急激に増加をし始め、私は日々の業務に追われていた。

海外でもそうだけど、外国人観光客にとってバトラーという存在はとても便利なもので、宿泊時の対応や要望があれば観光案内から買い物のお手伝いまで至れり尽くせりな上、サービス代は宿泊料金に予め含まれているため煩わしいチップは不要。

そんな国内のバトラーサービスは海外の方にとても人気で、希少なサービスを取り入れている当ホテルには宿泊客が殺到し、私はより手厚いおもてなしをする為に、普段以上にあちこち動き回っていた。


今日も中国から来たお客様を浅草からお台場まで多岐にわたり各観光地を案内したので、今まで以上に労力を使い、足が棒になりながらホテルへと戻った。


「あ、天野さんお疲れ様。今日も観光案内大変だったね」

お客様をお部屋まで見送った後フロントへと戻ると、丁度受付案内を終えた瀬名さんはこちらに気付くやいなや、笑顔で手を振ってくれた。

「瀬名さんもお疲れ様です。結婚式の準備があるのに最近残業続きで大丈夫ですか?」

その笑顔に癒されながらも、少しやつれ気味に見える彼が心配になり、私は不安な面持ちで顔色を伺う。

「大丈夫だよ。こればっかりはしょうがないし。それよりも天野さんの語学力は本当に凄いね。この前もスペインから来たお客様を案内してたし、なんかホテルマンをやっているのが勿体ないと思うよ」

しかし、瀬名さんはいつもの爽やかな表情で私の懸念をさらりと交わした上、リスペクトまでしてきた事に、私は恥ずかしくなって反応に困ってしまう。

「あ、ありがとうございます。語学勉強は趣味みたいなものでしたから。好きなことは覚えが早いといいますしね」

とりあえず、ここは素直にお礼を言おうと、私は照れている自分をあまり表に出さないよう気をつけながら、微笑んでみせる。

「語学勉強が趣味だなんて……。やっぱり天野さんは凄いね」

それなのに、なぜか若干引き攣り笑いを浮かべて二度目の褒め言葉を頂いたのだけど、何だか先程とは違う意味が含まれているように思えるのは気のせいだろうか。



「っあ、天野さん。さっき下の受付から連絡が入ったんだけど、来客があるみたいよ?……なんか、かなり不穏な様子らしいけど……」

すると、瀬名さんの隣に立っていた女性従業員の方が持っていた受話器を置いた途端、とても訝しげな面持ちを向けて伝えてきた話の内容に、私は自ずと嫌な予感がしてきた。

「……ど、どなたか名乗っていらっしゃいましたか?」

こんな時間帯に何の連絡もなしに自分を訪ねてくる人物。しかも、“不穏な様子”という言葉を聞いて、思い当たる者は一人しかいない。
けど、念のためと思い、私は恐る恐る女性従業員の方に確認してみると、彼女はとても困った表情で顎に手をあてた。

「若い女性らしいけど、どうやら名前の確認すらさせて貰えない程に興奮しているみたい。天野さん何かトラブルでもあったの?」

そして、思い浮かんでいた人物を確信させる返答に、私は一気に顔が青ざめていく。

「……天野さん、もしかして……」

そんな私を見て瀬名さんも勘付いたのか。深刻な表情を向けて尋ねようとする内容を私は最後まで聞かず、無言で首を縦に振る。

「とにかく行ってきます。一応御子柴マネージャーにもこの事を伝えといて下さい」

それから最悪の事態に備えて、私達の事情を知る瀬名さんに全てを託してから、私は早足にロビーへと向かったのだった。
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