3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜
____数日後。
「だから、この部分がコンセプトと違うと言ってるだろ」
「けど、このデザインは利便性と環境を融合していると先方が……」
「クライアント側が相手に呑まれてどうするんだ?こちらの趣旨を理解出来ないようならさっさと切れ」
「しかし、それではもうすぐ納期が……」
「だからこうして中間チェックしてるんだろ。それに候補は既に他にも出てる。それが間に合わなくても特に支障は無いし、次でダメならこの案は切るぞ」
出先から帰ってくるや否や、何やらまたあの主任男性は東郷課長にダメ出しを食らっているようで、しかも今回は小競り合いにまで発展しているらしく、私は見ていられないと目を背けた。
デスクの場所が東郷課長の目の前にあるせいで、こういうやり取りは嫌でも毎日耳に入ってくる為、聞いてるこっちまで気が滅入ってしまう。
相変わらず彼は平然とした態度で誰であろうと容赦なく物を言えるから、嫌われることを厭わないその神経の図太さにはある意味感心する。
一方で、仕事をきっちりこなしている人には基本何も言わないし、認めるところは認める。部下のマネジメントに関しても、個々の進捗状況を把握しているようで、こうして危ないと感じた時は自らチェックをして、時にはフォローに回ったりするなど、しっかり管理されている。
なので、人間性はさて置き、一応上職としての責務は全うしているとは思う。
暫くして、二人の小競り合いが収束したのか。
主任男性は不服そうな表情で自分のデスクに戻ろうとした時だった。
「…………松本」
一間置いてから、東郷課長は急に神妙な面持ちへと変わり、いつになく低い声で主任男性の名前を呼ぶと、何やら男性の肩がビクりと小さく震えた。
それから、ぎこちなく返事をして振り返ると東郷課長はまるで射抜くような鋭い目を彼に向けると、席を立ってから無言で手招きをする。
何だか先程と一変して、とても張り詰めた空気が二人の間から感じられ、妙な胸騒ぎを覚えた私は、思わずそのやり取りをじっと眺めてしまう。
そして、東郷課長はそのまま奥の小部屋へと向かうと、まるでこれから死刑台にでも連れて行かれるような顔面蒼白になり始めていく男性主任が後を付いて行く。
その後、部屋の扉は閉められ、暫くの間二人が出てくる事はなかった。
おそらく、あれは只事ではない。
ただの注意事項なら、いつものように自分のデスクで手加減なくバッサリと切り落とすのに、個室に連れて行くのはそれ以上の何かがあるのだろう。
そんな事は滅多にないので、あの主任男性の青ざめた表情を見た限りだと、きっと……。
なんて思っていると、程なくして部屋の扉は開かれ、そこから先程よりも更に顔色が悪くなっている主任男性が先に出て来て、それから直ぐに東郷課長が何食わぬ表情で部屋から出てきた。
私は主任男性の後ろ姿を目で追うと、何やら相当なショックを受けたのか。足元が覚束ない状態で自分のデスクへと戻っていくと、放心状態となり、暫くそこで固まっていた。
その様子に、自分の考えていた事が確信へと変わると、一部終始を目撃してしまった身としては気にせずにはいられず、気持ちが落ち着かない。
すると、東郷課長は部屋を出てから自分の席には戻らず、そのまま何処かへ行ってしまったので、居ても立っても居られない心境に、私は作業を中断してあの男の後を追いかけることにした。