3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜

部屋の扉を静かに閉めた途端、全身の力が一気に抜けて、私はその場に座り込んでしまう。


“どんな時も清く、正しく、礼節をわきまえる。

どんな時も、言葉遣いは綺麗で、丁寧に。

どんな時も相手に優しく素直で謙虚な姿勢を忘れない。”


常に言い聞かされていた両親の言葉が何度も頭を過ぎっていく。

今まで常日頃から聞かされていた言い付けをしっかりと守ってきたつもりだったのに、まさか社会人になって、しかも失態を晒した相手が代表の御子息様だなんて。

大分お怒りになられていたし、名前を聞かれてしまったので、おそらく責任者である御子柴マネージャーがお咎めを受けるかもしれない。

尊敬する方なのに、私なんかのせいで責任を問われる事になるなんて、とてもじゃないけど堪えられない。

人に尽くすホテルマンに憧れて、これまで必死になって頑張ってきたけど、もしかしたら、それもここで終わりな気がして。沸き起こる絶望感に、再び涙が溢れそうになってくる。


今までは東郷様の営みに苦しめられたけど、今回はそれ以上に、東郷様に対する自分の行いに苦しみ、私は暫くその場から動く事が出来なかった。

それから私は、とりあえず事態を隠す事なく、上司に直ぐ報告した。

やはり、かなり驚かれてしまい、お叱りを受けた後、私は再び正式にお詫びを申し上げに伺おうと提案した。

しかし、上司の方曰く東郷様の性格上これ以上プライベートの時間に踏み込まれると、かなり不機嫌になるそうなので、一先ず様子を見ようということになったのだった。
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