3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜



「瀬名さん、この前は素敵な場所を教えて頂きおおきに。お陰で楽しい一日になりましたわ」

「それは良かったです。またこちらにいらした際は、当ホテルのご利用をお待ちしておりますね」


思考を巡らせながらホテルの入り口まで到着すると、珍しく外で若い女性のお客様の対応をしている瀬名さんの姿が視界に映り、私の心臓は大きく跳ね上がった。

確かあのお客様は関西の大企業のご令嬢の方だったような……。

前から都内に遊びに来た際は、瀬名さん目的で当ホテルをご利用されていて、それなりに利益に貢献して頂いているVIPのお客様だ。


頬を染めながら、とても幸せそうな表情でお話をするお姿は、側から見てもいかに瀬名さんに想いを寄せているのかが良く分かる。

おそらく私も瀬名さんとお話をする時は、きっとあの方と同じ様子なのかもしれない。

自覚症状もあるし、良く周りから気持ちが顔に出やすいと言われてしまう事がある。

何だか瀬名さんとお話をしているご令嬢のお姿が自分と重なって見えて、一人恥ずかしくなり視線を足下に落とす。



「あれ、天野さん外出してたんだ。お疲れ様」

程なくして、お客様の対応を終えた瀬名さんはこちらの存在に気付くと、笑顔で手を振ってくれて、私の頬もやはりみるみるうちに熱を帯び始めていく。

「瀬名さんもお疲れ様です。先程のお客様は本当に瀬名さんのことを慕っていらっしゃるのですね。相変わらず女性のお客様の人気が凄いです」

それから私は小走りで瀬名さんの元へ駆け寄ると、何年経っても変わらない瀬名さんのモテ具合に関心しながら彼を見上げて微笑んだ。

「あはは、身に余る限りだよ」

そんな私のリスペクトに瀬名さんは少し困ったような笑顔を見せながらも、さらりと交わしてくる。

「そうだ。天野さんってもうすぐ休憩かな?俺丁度今からランチに行こうと思うんだけど、一緒に食べる?」

すると、まさかの瀬名さんのお誘いに、私は思わず変な声を上げてしまいそうになるのを、すんでのところで堪えた。

「え、ええ。是非ご一緒させて下さい」

そして、身体中激しく鼓動が鳴り響く中、何とか平静を装って首を大きく縦に振る。

「それじゃあロビーで待ってるから、準備出来たら降りてきて」

そう言うと、爽やかな笑顔を向けてホテルの中へと入っていく瀬名さんの後ろ姿を、私は暫く夢見心地で見送った。
< 68 / 327 >

この作品をシェア

pagetop