3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜

第5話.名前

「天野さん何食べる?っあ、ここのハンバーグランチは結構お勧めだよ」

「は、はい。ではそれにします」

テーブル席で向かい合いながら私達はメニューを決めると、瀬名さんは通り掛かった店員の方にすかさず声を掛け、まとめて注文をして下さった。

相変わらずのスマートな振る舞いに見惚れてしまうが、とにかくいつまでも緊張したままではいけないと思いながら、私は辺りを見渡す。

「ち、近くにこんな素敵なお店があったんですね。せ、瀬名さんは何度かいらした事があるのですか?」

何とか自然な会話になるように心掛けるも、震える声はどうしても隠す事が出来ず、笑顔もつい引き攣ってしまう。

「あ、うん。人に勧められて行ったら結構良かったから。女性に人気みたいで、ここサラダバーも種類豊富だし、パンも食べ放題だから天野さんも気にいるかなって思って……」 

一方、私とは裏腹に普段通りのとても落ち着いた様子でやんわりと微笑みながら、こちらの目を見て話す瀬名さんに、私の鼓動は益々激しさを増していく。

「天野さん、もしかして緊張してるの?」

すると、まさかの胸中を言い当てられてしまい、私は目を大きく見開いて思わずその場で硬直してしまった。

「……あ。え、えっと……。も、申し訳ございません!同期と言えども男性と二人でお食事なんて初めてなもので。ふ、不快にさせてしまったでしょうか……?」

上手く誤魔化そうともしたけど、動揺を隠しきれず、しかも全身湯気が出そうな程の熱を帯び始めていく私は、素直に認めるしかないと潔く頭を下げる。

こうならないように努力していたつもりだけど、やはり不自然になってしまう自分の不甲斐なさにほとほと嫌気が差しながら、私は瀬名さんの顔色を伺う。

「あはは。確かに、意識されるとこっちも少し照れるけど、天野さんらしいから別に気にしないよ」

けど、予想に反して瀬名さんはあっけらかんとした態度で笑って見せてきたので、私は少しだけ緊張感が緩み始めた。
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