転生アラサー腐女子はモブですから!?
「お母さまは、どうしてお父さまと結婚しようと思えたのですか? お父さまだけが、お母さまを一人の女性として見てくれたからですか?」

「それも、あるわね。ただのルイーザとして接してくれたのは彼だけだった。でもね、それだけじゃないわ。あの人ね、私に全く興味がなかったの。王城の図書室で初めて出会った時も、すごく迷惑そうな顔をされたわ。私のこと嫌だったんじゃないかしら」

 うそでしょ!? 今でも、あんなにラブラブなのに。

 クスクスと笑いながら、楽しそうに父との馴れ初めを語る母の話は、驚きの連続だった。

 当時、まだまだ一執務官だった父ルイは、お世辞にも要領が良いタイプではなかったそうだ。簡単に言うと出世には全く興味がない学者肌、上司に媚びへつらうこともせず、執務官の中では変わり者扱いだった。そんな父にとって、公爵家の令嬢と親しくなるなど、面倒なだけ。初め父は、母から逃げてばかりだったと言う。

 そんな二人の関係が大きく変わる出来事が起こった。

 婚約を断った高位貴族の息子と、その取り巻き集団に母が、悪様に貶されている場面に、父が居合わせた事があったそうだ。婚約を断ったことに対する腹いせか、その子息は社交の場で、あること、ないこと母の悪口を言いふらしていた。当時、変わり者令嬢と陰で揶揄されることもあった母の立場は、ますます悪くなり、精神的にも追いつめられていた。そんな母を助けたのが、父だったとか。

「あの人、自分より高位の貴族に向かって、説教したのよ。信じられる? その姿に惚れちゃったのよね。それにね、私の生き方を認めてくれた。結婚が全てじゃないって、女性だからって嫌な相手に嫁ぐ必要はないってね」

 そう言って幸せそうに笑う母を見て、アイシャの心の中は荒れ狂う。

 母が恋愛結婚できたのは、娘のわがままを実現できるだけの地位も権力も財力もある父を持つ公爵家の令嬢だったからだ。わがままが許される立場だった母と、ただの伯爵令嬢であるアイシャとでは、立っている土俵がそもそも違う。

「お母さまは、お父さまと言う理解者を得て、恋愛結婚をされました。でも、それは貴族社会では珍しいことではありませんか?」

「確かにね。私は、恵まれていたと思うわ。政略結婚が当たり前の貴族社会で、わがままを言えたのは私が公爵令嬢だったからだわ」

 高位貴族であれば可能でも、下位貴族では不可能なこともある。高位貴族から婚約を打診されてしまえば、それを断るのは至難の技。嫌な相手であろうと嫁がねばならないのが貴族社会というものだ。

「貴族の結婚は(しがらみ)ばかりです。そして、妻は夫に従い貞淑である事を求められるのが貴族社会の結婚です。自由がない結婚なんて不幸なだけですわ」

「アイシャ、貴方が言いたい事もよく分かります。しかし、貴方が考える程、結婚は不幸なものではないわ。たとえ、政略結婚でも愛を育むことは出来るのではありませんか?」

「恋愛結婚をしたお母さまには、わかりませんわ」

「確かに私は、愛した方と結婚できました。しかし、貴方の父、ルイはどうだったのでしょうか? 公爵家から娘と結婚しろと圧力をかけられたルイにとって、私との婚約は政略結婚そのものだったでしょう」

 母の言葉にハッとする。
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