転生アラサー腐女子はモブですから!?
 父にとって母との結婚は、公爵家からの圧力のもと行われた政略的なもの。結婚当初、父が母と同じ熱量で、母のことを愛していたとは限らない。しかし、今の二人はどうだろうか。誰が見てもラブラブな二人だ。

(結婚してから育む愛もあるのか……)

「アイシャ、夫となる人に貴方のことを理解してもらう事はとても重要です。なぜ貴方は結婚を嫌がるのですか? その理由を相手に話し、理解してもらえるのであれば、アイシャの言うところの窮屈な結婚生活にはならないのではないかしら。年をとってからの一人は辛いわ。愛する家族に囲まれて過ごす余生は、かけがえのないものよ。貴方に求婚している殿方は、アイシャのことを理解しようとしない心の狭い方達なのかしら」

 母の言う言葉は正しい。

 確かに女一人で生きて行くには並大抵の努力では無理だ。手に職をつける事が出来たとしても、年老いてから一人で過ごす余生は、想像するだけで寂しい。前世のように老人ホームがあるわけでもなく、誰にも看取られず、死にゆくのは悲し過ぎる。前世の最期が、どんなものだったかは分からない。しかし、悲しんでくれる家族はいた。

 母に言われるまで気づかなかった。

 一人で生きて行くのは、想像だにしない悲しみと、隣り合わせだと言うことを。

「少なくとも貴方に求婚している三人は、アイシャ自身を見てくださる殿方ではないかしら。誰と結ばれるかは自ずとわかるものよ。私の時みたいに、必ず心が訴えてくるから。アイシャには、婚約者を早く選ばないと社交界で悪評が広まると脅しましたが、焦らずゆっくり考えてみなさい。私達家族は、貴方が幸せになる結婚を望んでいるのだから」

 出来れば愛する家族と幸せな人生をかぁ。あの三人は、私の譲れない趣味を知っても好きでいてくれるのだろうか……

 母からの言葉が、アイシャの頭の中でクルクルと回る。

『誰と結ばれるかは自ずとわかるもの。心が訴えてくるから』と。


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