転生アラサー腐女子はモブですから!?

魔王と小悪魔

 クルーの案内で、舞踏会場へと入ったアイシャは、辺りを見回し驚く。

「華やかね……」

 船上最後の仮面舞踏会に集まった紳士淑女の趣向を凝らした衣装は、目にも楽しい。もちろん、タキシードや夜会用のドレスに仮面を付けただけの人も多くいる。しかし目を引くのは、変わった衣装の人達だろう。道化師の格好をしている人や黒いマントを羽織り、頭に角をつけた悪魔風の衣装の人、ミニドレスに羽をつけ妖精風の衣装に身を包んだ女性など、バラエティに富んでいる。

 船上最後の夜会は、平民から貴族まで、お金さえ払えば身分関係なく参加出来る。そのため、仮面や仮装で身分を隠し、一夜の享楽を得ようと、様々な人種が参加していた。

(壁際で、参加者の衣装を見ているだけでも楽しいわね)

 リアムを探しながら、会場を歩いていたアイシャだったが、あまりの人の多さに彼を見つけるのをあきらめ、壁の花となるべく移動する。

 会場の真ん中では、色鮮やかな衣装を身につけた数組の男女が優雅にダンスを踊っている。あちら、こちらから聴こえる騒めきも、様々な衣装を着た人達で埋めつくされた会場の雰囲気と重なり、アイシャの心をワクワクさせる。

 ボーイから受け取った海色のカクテルを飲みながら、一人会場の雰囲気を楽しんでいたアイシャは、誰かが近づいて来ていたことに、気づかなかった。

「美しいお嬢さま、私と一曲踊ってくださいませんか?」

 声がした方へと振り向けば、王子様風の衣装に身を包んだ男が立っている。

(誰かしら?)

 目の前の男が、アイシャへと優雅に手を差し出す。しかし、その手を取ることを躊躇わせる何かが、その男にはあるような気がしてならない。

 その男のスラッとした体型に、王子様風の衣装はとても似合っている。それに、後ろへと撫でつけた茶金の髪も艶やかで、優男風の面立ちは、イケメンの部類に入るのだろう。しかし、仮面からのぞく瞳に見つめられると、なんとも言えない嫌な気分に、悪寒が走る。

 獲物を前に舌舐めずりする肉食獣のギラついた目を思い出し、アイシャの第六感が警鐘を鳴らす。

(この男は危ない……、どうにかして、逃げなければ)

「申し訳ありません。わたくし、ある方と待ち合わせをしておりますの。ですので、この場を離れるわけには参りませんわ」

「こんな会場の片隅で、美しい貴方を一人待たせるなんて、ひどい人だなぁ。少しなら、ここを離れても大丈夫ではないかな。一曲踊ったら、戻ってくればいい」

 目の前の男は、アイシャの言葉を遮り、あまつさえ自分勝手な言い分をつらつらと並べ、終いには、無理矢理アイシャの手を掴み、引っ張た。

(許可なく女性の手を掴むなんて……、イケメンなら何をしても許されると思ってるのかしら!)

「手を離し――――」

「――――私の婚約者の手を、離してくれないかな」
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