転生アラサー腐女子はモブですから!?
「ナイトっていうより、今のリアム様は、魔王みたいですわ。とっても魅惑的な魔王さま。貴方様は、わたくしをどこへ連れ去るおつもりなのかしら?」

 色とりどりの羽飾りで装飾された仮面をかぶり、真っ黒なタキシードに、黒のマントをはためかせたリアムは、誰をも魅了し支配する、魔王そのものに見えた。

 そこかしこから注がれる女性達の熱い視線を感じ、アイシャの中の独占欲が噴き出す。

「今宵は、誰をも魅了し翻弄する、地上に舞い降りた小悪魔を捕らえに来たのです。貴方は、魔王である私に魅了の魔法をかけましたね。責任をとって、もらいましょうか」

 目の前に立つリアムが、お辞儀をし、手を差し出す。

(リアムは魔王、私は魔王を翻弄する小悪魔って設定かしら? ダンスを一緒に踊るのね)

 何だか劇の演者になったようで、アイシャの心も弾む。

「ふふふ、魔王様の仰せのままに」

 アイシャはリアムに手を引かれ、歩みを進める。圧倒的な存在感を放つ二人に、人垣が割れ、会場の真ん中へと続く道が開ける。手を重ね、片足を引き、儀礼的なお辞儀をすれば、それを待っていたかのように、ゆったりとしたワルツが流れ出す。会場の真ん中で、魔王さまに腰を抱かれた小悪魔が踊る。リアムのリードに合わせ踊り始めたアイシャは、彼との初めてのダンスに酔いしれる。

「アイシャと、こうして踊るのは初めてだね。デビュタントの夜会では、ノア王太子とキースに先を越され、苦々しく思っていたんだ。でも、これからはずっと、夜会のパートナーは私だ。いつでも一緒に踊ることが出来る」

 リアムの言葉に、アイシャの心も踊る。好きな人と踊るダンスが、こんなにも楽しいものだなんて知らなかった。

 ゆったりと流れるワルツに、リアムの胸へと頬を寄せれば、キュッと強く腰を抱かれ、彼のリードに合わせクルクルと回る。二人に注がれる熱い視線も、ため息混じりの感嘆の声も、アイシャの耳には入らない。

 二人だけの世界。

「これからは、ずっと一緒。私が、リアム様のパートナー」

「そうだ、ずっと」

 彼の言葉に、心が満たされていく。優しい笑みを浮かべたアイシャを見つめ、リアムもまた、幸せそうな笑みを浮かべる。

「ふふふ、でしたら、両親に早く報告しなきゃ。リアム様との婚約を受けるとね」

「その話なんだが……」

 急に、声のトーンを落とし、視線を外したリアムに、アイシャの心の中に不安が芽生える。

「リアム様、どうされましたの?」
< 149 / 281 >

この作品をシェア

pagetop