転生アラサー腐女子はモブですから!?
 当時、伯爵家の長男として厳しく躾けられていたダニエルとは違い、両親は無条件にアイシャを愛し甘やかしていた。幼いからこそ甘やかされる妹に嫉妬していたダニエルは、アイシャと接する事を尽く避けていた。

 冷静になり考えれば、三歳のアイシャと六歳で王城にも上がっていたダニエルでは全く立場が違う。両親が厳しくなるのも当前だと気づきそうなモノだが、嫉妬に目が眩み、そんな些末な事ですら、あの時のダニエルは分かっていなかった。

 書庫でアイシャに投げかけた質問に、こともなく発せられた回答。

『歴史を知る事でわたくしの事を知る事に繋がるのです』

 はっきり言って何を言っているのか意味不明だった。しかし、その後に続いたアイシャの言葉がダニエルの人生を大きく変えた。

『勉学は自分のためにするものでしょ。将来の自分自身にする投資ですわ!』

 衝撃だった。

 ダニエルはリアムに負けたくない一心で勉学に励んでいた。しかし、アイシャは自分のために勉学はするものだと言う。

『将来の自分自身に対する投資』

 リアムとの縮まらない差に腐っていたダニエルには、アイシャの言葉は天啓に聞こえた。

 それからのダニエルは、サボりがちだった王城での勉強会にも積極的に参加するようになり、たとえリアムが天才的な解答をしようとも気にすることはなくなった。

 自身のペースで興味のある分野に手を伸ばすようになったダニエルは、様々な知識を貪欲に吸収し、今では講師からも、一目置かれる存在となった。

 王太子殿下からの覚えもめでたく、今ではリアムと共に王太子殿下側近の筆頭と言われている。

(あの時、アイシャの言葉がなければ私の人生は腐ったものになっていただろう)

 アイシャは、ダニエルにとって妹と言うだけでは足りない特別な存在だ。

 その妹が七歳の誕生日を迎えると同時に婚約者を選ぶ。

 ダニエルは、『私が婚約者になる』と手を挙げたいくらい妹を溺愛しているが、アイシャの将来を考えるとそんな身勝手な行動など取れないことも分かっている。

 今日の誕生日パーティーに集まる面子を考えれば不安でしかない。

 出来る事なら王太子殿下とリアムにだけは目をつけられたくない。他の男ならどんな手を使ってでも叩きつぶす自信はあるが、あの二人はダメだ。

 優しい顔してエゲツない策を練るのに長ける王太子殿下と、飄々(ひょうひょう)としながら腹の中真っ黒なリアムに勝てる気がしない。笑いながら崖から敵を蹴落とすくらい造作なくやりそうだ。

 そして、もう一人。キース・ナイトレイ。

(アイツも来るのだろうか……)

「はぁぁ……」

(どうしたらアイシャの婚約話を阻止する事が出来るのか)

 澄ました顔して紅茶を嗜むアイシャの隣でダニエルは盛大なため息をこぼした。
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