転生アラサー腐女子はモブですから!?

嫉妬【キース視点】

 憲兵の詰め所を飛び出したキースは、数名の部下を引き連れ、必死に馬を走らせる。

(どうか間に合ってくれ!!)

 アイシャに付けていた護衛兼密偵から、彼女がグレイスの後をつけていると報告を受け、急ぎ馬を走らせているわけだが、こんな状況になるなら町歩きを止めさせるべきだった。

 明らかに、罠だとわかる状況にも関わらず、なぜアイシャはグレイスの後をつけている?

 アイシャには常に二人の密偵をつけているが、そのことを彼女は知らない。一人での街歩きを満喫しているアイシャの楽しみを奪うのも気が引けて、表立って護衛をつけるのは避けていた。もちろん、アイシャ自身も一人での街歩きの危険性を十分理解した上で、行動していた。今までは。

 しかし、今回の街歩きに限っては、そうではない。

 町の詰め所へと駆け込んできた密偵の先導の元、裏路地をいくつも曲がり、人通りもまばらな通りを抜け、馬を走らせれば、キースの中に違和感が生まれる。

 普通の精神状態であれば、こんな寂れた場所を女性一人で通ろうとは思わない。人通りがほぼない場所で襲われたら、叫んだところで助けなど来ないからだ。そのことをアイシャが理解していないわけがない。つまりは、こんな寂れた場所を通ってでも、グレイスを追いかけねばならない理由があった。

(グレイスは、誰と一緒にいた?)

 頭の中に浮かんだ一つの答えに、キースの顔が歪む。しかし、今はそんなことを考えている場合ではない。一刻も早く、アイシャを見つけなければ、手遅れになる。
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