転生アラサー腐女子はモブですから!?

嫉妬【リアム視点】

『今の私は貴方を信じてあげられない』か……

 リアムは先を急ぎつつ、アイシャに告げられた最後の言葉を思い出していた。

 自分から遠ざけるため起こした行動が、彼女を苦しめ、追いつめた。

 何故、グレイスと婚約した時にアイシャに今回の計画を打ち明けなかったのだろう。ノア王太子に口止めされていたとはいえ、やり方はいくらでもあった。

(何も言わず婚約者候補を降りれば、アイシャが私に捨てられたと考えてもおかしくはないか……)
 
 あの時、正直に全てを伝えていれば、彼女の心が離れてしまうことはなかったのだろうか。アイシャの愛を勝ち取った喜びが、己を愚かにした。何をしてもアイシャの心が離れることはないと高を括り、慢心してしまった。今さら後悔しても遅い。

『ごめんなさい』

 あの言葉が全てを物語っていたのだろう。

(アイシャの心に私はもう居ない)

 アイシャにずっと寄り添い、守って来たのはキースだ。彼女の心に居るのはキースなのだろう。

 愛している……

 アイシャを見るだけで燃え上がる狂おしいほどの想いは、今も心の中で燻り続けている。
 気を失ったアイシャを大事そうに抱き上げたキース。『アイシャは私のものだ』と叫び出しそうになる気持ちを抑え、あの場を立ち去れたのは奇跡と言ってもいい。紛れもない嫉妬。ドス黒く濁った心から溢れ出しそうになる醜い感情は、キースに対する嫉妬心。

 あの夜もそうだった。

 バルコニーで楽しそうにダンスを踊るキースとアイシャを見つけた時に感じたのは、キースに対する紛れもない嫉妬心だった。

 グレイスにキスを強請られ、彼女を油断させるため希望通りにするのが最善だと頭では分かっていた。しかし、アイシャ以外の女とキスをしなければならない現実に吐き気がした。纏わりつくように回された腕に、背筋を駆け上がる怖気。なんとか額への口づけだけで、その場を誤魔化すことに成功したわけだが、今思い出しても、あの女のどこか獲物を狙うヘビのような瞳に寒気が走る。

 ノア王太子の言葉が甦る。

『アイシャの君に対する恋心は果たしてどれくらい深いものなんだろうね? 恋を知ったばかりのアイシャの気持ちを変えさせるのは、案外簡単かもしれないよ』

 アイシャがたとえキースを愛していても、彼女が幸せな人生を歩むなら、それでいいじゃないか。キースならばアイシャの自由な生き方を理解し、支える事は容易いだろう。

 彼女が幸せならそれでいい……

 そのためにも、アイシャの敵となり得るグレイスとドンファン伯爵を潰さなければならない。今回の襲撃事件で確信した。グレイスは、アイシャに害なす者だ。生かしてはおけない。

 あの女をこの世から葬り去るためにも、証拠を集めねばならない。そのために、裏界隈の元締めに接触し、あの男を信用させるだけの裏工作をしてきたのだ。ここで失敗するわけにはいかない。

 アイシャの幸せのために。
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