転生アラサー腐女子はモブですから!?
「本当にごめんなさい……」

「もう無茶はしないと約束してくれるね?」

 キースの言葉に何度も肯く。

「怪我が治るまで、ナイトレイ侯爵家で静養してくれるね?」

「……はい。――――っえ!?」

 キースの言葉に肯きながら、アイシャの頭の中に疑問符が浮かぶ。

「ナイトレイ侯爵家で静養?」

「あぁ。アイシャの右手は当分使わないようにと侍医から言われている。リンベル伯爵家では、アイシャの世話をする侍女を四六時中そばには置けないだろう? ナイトレイ侯爵家なら侍女の数も充分に揃っているし、アイシャ専属にすることも可能だ。だから、ゆっくり怪我の治療に専念出来るだろう」

「いえいえ。これ以上、ナイトレイ侯爵家に迷惑をかけるわけには行きません。利き手が使えずとも、なんとかなりますので、直ぐにお暇させて――――」

「――――あれ? もう無茶はしないのだろう? それに、リンベル伯爵家には、アイシャをナイトレイ公爵家で静養させると、伝え済みだよ。伯爵からも『よろしく頼む』と頭を下げられた手前、今さら断れないだろう。それこそ、ナイトレイ侯爵家の威信に関わる」

 目の前のキースは爽やかな顔して笑っているが、絶対に確信犯だ。アイシャを追い出したくらいで揺らぐような侯爵家の威信ではない。それに、キースの目がまったく笑っていない。

「あと、母上も張り切っているから今さら帰るなんて言ったら暴動が起きる。だから諦めてナイトレイ侯爵家で静養するように! 逃げたら後が怖いよ」

 目の前のキースは、笑顔を顔に貼り付け、黒いオーラを発している。どうやら逃げることは不可能らしい。

「……お世話になります」

 黒いオーラのキースに、ナイトレイ侯爵夫人の組み合わせなんて、白旗あげるしかないじゃない……

 アイシャは、達観した境地で真っ白な天井を見つめ、しばし現実逃避を試みた。

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