転生アラサー腐女子はモブですから!?
「アイシャ様、お召し物をお持ち致しました。湯浴みはまだ難しいのですが、お身体をお拭き致しますね」

 先ほどまでアイシャの食事の世話を焼いていたキースと代わるように、紹介された侍女が着替えを手に部屋へと入って来た。

「ありがとうございます。でも、一人で着替えられますので、大丈夫ですよ」

「何を仰いますか。一人でなんて、危なくて着替えさせられません。お恥ずかしいとは思いますが、アイシャ様が意識がない間もずっとお世話をして参りましたのでご安心を。足元も覚束ないと思いますが、お食事も完食されましたし、少しずつ歩く練習もして行きましょう。先ずは、ベットに腰掛けるところからです」

 アイシャは侍女の手を借り、ベットの縁に腰掛けてみる。バランスを崩さず座っていられたことにホッとしていたアイシャだったが、いざ立ち上がってみると、足に全く力が入らずバランスを崩しそうになる。なんとか侍女に支えられて、立てている状態だ。

(たった三日、寝たきりだっただけで、こんな状態になってしまうの!?)

「これでは、一人で着替えなんて無理ね。ごめんなさい、生意気言って。着替えをよろしくお願いします」

 自分の非を認め、目の前で支えてくれている侍女に頭を下げるアイシャを見た彼女の目が、驚きで見開かれる。

「アイシャ様って……、素直な方なのですね。貴族の方は大抵、格下の者に謝罪など、されません。ましてや使用人に頭を下げるなんて事、普通しませんので驚きました。わたくし平民出身でして、職に付けず食べる物にも困っているところを奥様に拾って頂きました。ナイトレイ侯爵家の皆様は本当にお優しい方達ばかりで、高位貴族だからと言って、傲慢な態度を取られる事もない素晴らしい方達ばかりです」

 そう言って、満面の笑みを浮かべる侍女の言葉にアイシャも頷く。

「そうね……、ナイトレイ侯爵家の皆様は、とてもお優しい方達ばかり。格下の伯爵家の娘だからって、傲慢な態度を取られたことはないわね。出来た方達ばかりよ」

「はい。そして、アイシャ様も」

「えっ? 私も?」

「そうです、アイシャ様も。キース様の大切な方の専属侍女に任命された時は、どんな方かと不安でしたが、さすがキース様がお選びになられたお方。心根がお優しいのですね。あっ! 失礼致しました。勝手にペラペラと……、申し訳ありません」

 目の前の侍女が恐縮して、何度も頭を下げる。

「そんなにかしこまらないで。私もただの伯爵令嬢よ。ナイトレイ侯爵家の皆様の足元にも及ばない、一般的な貴族家の娘なの。だから普通に接してくれた方が嬉しいわ」

「アイシャ様、ありがとうございます。至らない点も多々有るかと思いますが、よろしくお願い致します」

「えぇ。こちらこそ、よろしくね」

 専属侍女との初顔合わせも上手く行き、色々な攻防の末、身体だけは自分で拭き、真新しい部屋着へと着替えを済ませたアイシャは、専属侍女の手を借り、一人掛けのソファへと移動する。
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