転生アラサー腐女子はモブですから!?
「練習中のところ申し訳ありません。わたくしリンベル伯爵家のアイシャと申します。ひとつお伺いしてもよろしいでしょうか?」

 目の前の精悍な顔立ちの教官が、爽やかな笑みを浮かべ、アイシャと目線を合わせるためしゃがむ。

「なんだい? 小さなお姫さま」

(うっひょお~、お、お姫さまって……、あぁ、笑顔が眩しい! この方、三十歳くらいかしら? こげ茶の短髪に、優しそうなタレ目、そしてバリトンボイス。タイプだわぁ♡)

 しかも、子供の目線に合わせ、しゃがんでくれる優しさをあわせ持つイケメン。ド・ストライクのイケメンの登場にアイシャの脳内妄想もヒートアップする。

(いけない、いけない。今は、妄想をはかどらせている場合じゃないのよ、アイシャ!)

「あのぉ、今日は練習を見学させて頂き、感謝しております。それで、不躾な質問で申し訳ないのですが、女性が騎士団に入ることは出来ないのでしょうか?」

「はっ!? アイシャちゃんは騎士団に入りたいの?」

「はい。決して皆さまのお邪魔は致しません。練習場の片隅で、皆さまの練習を見ながら私も剣を習いとうございます」

 アイシャの言葉を聞いた茶髪イケメンの雰囲気が冷たいものへと変わる。先ほどまでの優しい雰囲気は鳴りをひそめ、真剣な面持ちで諭される。

「剣は遊びで握るものではない! 貴族令嬢のお遊びに付き合う程、騎士団も暇ではないんでね」

 背を向け、歩き出してしまった教官を慌てて追いかけ、彼の服の裾をつかむ。

「お待ち下さい! 決してお遊びなんかじゃございません!! と、とある事情がありまして剣を学びたいのです!」

 アイシャの呼びかけに振り向いた教官へと、伝家の宝刀、涙目攻撃を仕掛ける。

(アイシャ、出来るだけ儚く見せるのよぉ)

「――――とある事情?」

「はい。でも、今はお話出来ません。しかし、どうしても自分の身は自分で守れる様になりたいのです」

「それは、またどうして……」

「……もう大切な人を失いたくない! お願いです。わたくしを騎士団へ入れて下さい」

 最後に一粒涙をこぼし、うつむいたアイシャの目を覗き込むようにして教官がしゃがみ、アイシャの頭を優しく撫でる。

「複雑な事情がありそうだね。騎士団に女性が入れるかと言えば、入団は可能だ。実際に数名の女騎士が在籍している。でも、入団には、試験にパスしなければならない」

「入団試験?」

「あぁ、基礎的な剣の扱いが出来ることが大前提だ。もちろん、模擬試合も行われる。そこで実力を測り、認められれば入団となる。一度も剣を握ったことがなければ絶対に受からない。君は剣を握ったことはあるのか?」

「いいえ。でも、あきらめる事なんて出来ないのです!」

「では、親御さんに剣の師匠をつけてもらうことは?」

(万が一、お父さまにバレたら一生家から出してもらえなくなるわねぇ)

 アイシャはブンブンと首を横に振る。

「まぁ、貴族令嬢が騎士団に入るとか言い出したら、自分が親でも必死で止めるわなぁ~」

 思案顔の教官がアイシャの頭を優しくポンっとたたき、ニッと笑う。

「リンベル伯爵令嬢が、俺の前に現れたのも運命か……、よし! わかった!! 俺が稽古をつけてやるよ」

「えっ! よろしいのですか?」

 思わず前を向いたアイシャの目に、困り顔で眉を下げた教官の優しい顔が飛び込んできた。

(――――キュン♡)

「あぁ。週に一回程度しか稽古出来ないが、基礎は教えてやれる。コイツらの練習が終わってからだが、いいか?」

「もちろんです! 教官ありがとうございます」

 ガバッと頭を下げたアイシャに、教官の笑い声が響く。

「ははは、俺の名は『教官』じゃなくて、ルイス・マクレーンって言うんだ。騎士団の副団長をしている」

「えっ、えぇぇぇ!! 副団長さまですの!」

「はは、役職なんて、どうでもいいだろう。アイシャ、よろしくな!」

 頭を撫でつつ、ニカッと笑う子供のような無邪気な笑顔に、キュン死にしそうになっていたアイシャは、またも予期せぬ大物を釣り上げたらしい。

(師匠ゲット!)
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