転生アラサー腐女子はモブですから!?
「リアムです。お呼びと、お聞きしましたが」

「あぁ、リアムか。今日は随分と遅かったようだが、まだ騎士団なんぞの練習に参加しているのか?」

「――――えぇ、まぁ。何か問題でも?」

 目の前の執務机に頬杖をつき、リアムを見つめるウェスト侯爵の視線が鋭さを増す。

(相変わらずの威圧感だな……)

 一気に緊迫感が増した室内に、リアムの喉が鳴る。

「以前から言っていると思うが、お前はウェスト侯爵家の跡取りとしての自覚があるのか? 騎士団なんぞ、野蛮な奴らの集まりではないか。考える事を知らぬ馬鹿ばかりが集まったな」

 瞬間的な怒りが湧くが、グッと堪える。

 怒りを煽り、冷静さを欠いた標的を言葉巧みに誘導し、思い通りに操るのは、父の常套手段だ。

(ここで怒りに支配されれば、父の思う壺だ)

「代々、ウェスト侯爵家は多数の宰相を輩出して来た知の名門だ。もちろんお前も将来は私の跡を継ぎ、後々は宰相になるつもりだろうなぁ? そのつもりがあるなら、さっさと騎士団を辞めて本気で勉学に励むべきだ」

『ウェスト侯爵家は知の名門』

 貴族社会ではよく知られた通り名だ。

 もの心ついた時から跡取りとして厳しく教育を受けてきたリアム、神童と言われる程の膨大な知識を身につけていった。

 しかし、それと同時にかけられる両親や周りからの期待が重くのしかかり、いつしか毎日が憂鬱でつまらないものへと変わって行った。

 そんなつまらない日々の中、出会ったのが当時すでに騎士団に所属していたキースだった。

 あの日も、王太子と共に受ける予定だった授業をサボり、王城の裏手の林で昼寝をしていた。その昼寝場所に、慌てた様子のキースが飛び込んで来たのだ。

 寝ていたリアムに蹴つまずき、地面に転がったアイツに声を掛けたのが最初だった。

 騎士団の練習に遅刻すると、慌てていたキースとは、あの日、ほとんど話さず別れた。それが何の因果か、昼寝場所でキースとよく出くわすようになり、いつしか話す仲になっていた。

 そんな日々の中、キースの誘いで騎士団の練習に参加したことがあった。

 剣を握ることもなかったリアムにとって騎士団での訓練は未知の体験で、無心で身体を動かす爽快感にすぐに夢中になっていった。

 剣を握り無心で振っている時だけが、憂鬱でつまらない毎日が変わる。

 あれから数年。

 騎士団に所属している事が父に知られ、ことある毎に辞めるよう叱責される日々、今までのらりくらり躱して来たがそろそろ決着を付けなくてはならない。

 アイシャの言葉が脳裏に浮かぶ。

(夢に向かって足掻けば、何かが変わるかもしれない、か……)
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