転生アラサー腐女子はモブですから!?
「君が、アイシャ嬢だね。可愛らしいお嬢さんだ」

(あぁぁ、無理無理。鼻血ふく……)

 バッチリと合った視線に、アイシャの気力は風前の灯だ。

(無理、かも)

 その時だった。隣に立つ父からグッドタイミングで助け舟が出される。披露目の会までに何度も父と練習を重ねた『挨拶』の指示を示す合図。その指示を受け、身体が自然と動き出す。

 絶対に失敗しないようにと、何度も身体に叩き込んだカーテシーの姿勢は、アイシャの脳内が瀕死の状態であろうと関係なく、完璧な姿勢をとる。ピンク色のフワフワのドレスを指先でつまみ足を一歩下げれば、自然と視線が下がり、ウェスト侯爵と視線が外れる。

 視線さえ外れてしまえば、機能を停止していた脳も復活する。冷静さを取り戻したアイシャは、ウェスト侯爵へと向け、口上の挨拶を述べる。

「リンベル伯爵家が長女、アイシャ・リンベルと申します。七歳の披露目の誕生日にお越しくださり、心より感謝申し上げます。ささやかな披露目の会ではありますが、お楽しみ頂けると幸いでございます」

「――――私を前に緊張せぬとは。アイシャ嬢、見事であった。七歳の女児には見えぬな。さぞかし、知に長けたお嬢さんなのだろう」

「いえいえ、アイシャはまだまだでございますよ」

「謙遜するでない。噂は聞いている。幼少期から、書物を読み、師の教授なしに我が国の歴史を始め、あらゆる学問を踏破した神童がいると」

「神童だなんて、恐れ多い。昔から、読書が好きな娘でして、書庫に入り浸っている様子を見た誰かが、面白半分に広めた噂でございましょう。ウェスト侯爵家のリアム殿こそ、本物の神童ではございませんか。十歳にして、王太子殿下の側近候補筆頭、うちのダニエルにも見習わせたいものです」

「いやいや、リアムはまだまだ。自分の立場というものをわかっていない。今も一体、どこへ行っていることやら……」

 苦虫を噛みつぶしたような渋い顔をするウェスト侯爵を見つめ考える。

(リアムって、確かダニエルお兄さまが言っていたアイツのことよね。神童の名に胡座をかき、まったくやる気を見せない困った坊ちゃん。ウェスト侯爵のあの顔を見る限りでは、中々の問題児らしい)

「おぉ! リンベル伯爵ではないか。久しいな」

 父とウェスト侯爵の掛け合いを横で静かに聞いていたアイシャの耳に野太い声が割って入る。その声に、視線を上げれば、青髪に豊かな口ひげを生やした筋骨隆々の大男が立っていた。

(デカっ!!)

 まるで熊のような大男の登場に思わず叫びそうになったアイシャは、慌てて口元を両手で覆い叫び声を隠す。

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