転生アラサー腐女子はモブですから!?
「失礼致します。兄上、お話があります。今、お時間よろしいでしょうか?」

「キースか。アイシャと和解出来たのか?」

「俺はアイシャに、たくさんの酷い行いをして来ました。なのにアイツは、俺を罵倒することもせず、俺の理不尽な物言いに助言までしてくれた」

 俯き、紡ぐ言葉に応えはない。

(俺の言葉に、兄上は今、何を思っているのか)

 きっと呆れている。兄の顔を見ることが怖くて仕方がない。

 だが、もう逃げない。

「兄上に聞きたい事があります。兄上は今、幸せですか? マクレーン伯爵家に婿入りして、幸せな日々を過ごせているのですか? 俺が跡継ぎの座を奪ってしまったことを恨んではいないのですか?」

 膝をつき泣き崩れたキースの肩が優しく叩かれる。

「お前がアイシャに辛く当たっていたのは、ナイトレイ侯爵家の跡継ぎ問題が原因か。キースに何も言わなかった俺も悪いな。俺は、マクレーン伯爵家に婿入り出来て幸せだ」

 兄の言葉に、項垂れ泣き続けていたキースが顔をあげる。その瞳には、優しく笑む兄の顔が写っていた。

「キース。俺と妻は、まだ俺がナイトレイ侯爵家の跡継ぎだった頃から恋人同士だったんだ。ただな、あの当時、妻と俺は立場上、結婚出来る状況ではなかった。マクレーン伯爵家の一人娘だった妻は、家を存続させるために婿を取るしかなかった。俺も跡取り息子だったしな。そんな時、リンベル伯爵家にアイシャが生まれ、ナイトレイ侯爵家の跡継ぎが歳の近いキースに替わることが決まった。そのおかげで俺は愛する妻と結婚する事が出来たんだ」

「では、兄上は――――」

「ああ、俺にとっては、アイシャもキースも感謝こそすれ、恨むことなど万が一にもない。二人とも大切な弟子だ。あの時、アイシャに剣を教えると言ったのも感謝からだったのだろうな」

 アイシャの言った通り、兄は幸せだった。そして、キースが兄に抱いていた罪悪感は無意味なものだったのだ。

「それにな、俺はお前の方がナイトレイ侯爵家の跡継ぎに相応しいと思うぞ。お前の騎士としての実力は抜きん出ている。俺から見てもその若さで一部隊を統率する手腕は見事だ。お前は、自分が思う以上に優秀な奴なんだよ。いくらアイシャと歳が近いと言っても無能な奴を父上がナイトレイ侯爵家の跡継ぎにするわけがない」

 そう言って笑う兄の言葉が、疑心暗鬼でがんじがらめになった心を解いていく。

「騎士として抜きん出て優秀な当主でなければ、ナイトレイ侯爵家は『白き魔女』を護る片翼の地位を維持することは出来ないからな」

『白き魔女』の片翼。

「彼女は……、アイシャは『白き魔女』なのでしょうか?」

「たぶんな。アイツは、全く気づいていないが。しかし、あの場にいたメンツが不味かった。陛下の子飼いとウェスト侯爵家のリアムとはついていない。情勢が大きく動き出すだろう。王家に、ウェスト侯爵家……」

「しかし、兄上。『古の契約』など、そんなカビの生えた契約、リンベル伯爵家は守るのでしょうか?」



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