転生アラサー腐女子はモブですから!?

後悔、先に立たず【キース視点】

(俺がアイシャに持っていた憎しみは、ただの八つ当たりだったのだろうか……)

 アイシャに言われたことが頭から離れない。

 キースは兄から跡継ぎの座を奪ってしまった罪悪感をアイシャを憎むことでしか、紛らわす術を知らなかったのだ。

 いいや、違う。それは、ただの言い訳に過ぎない。

 アイシャの言う通り、今までキースは兄の本心を直接聞いた事も、父に跡継ぎは兄の方が相応しいと進言したこともなかった。

(俺は、全ての責任をアイツに押しつけ逃げていただけだった)

『騎士たるもの弱き者を護るため剣を握れ』

 いつだったか、剣の師匠だった兄から言われた言葉だった。

 剣の扱いもままならないアイシャを本気で吹っ飛ばし、容赦なく打ちつけた。明らかに自分より力も技術もない女性に対して、耳を塞ぎたくなる汚い言葉を何度も浴びせた。

(俺は、なんて酷いことをアイシャにしてきたのだろう……)

 自責の念が胸に去来するが、過去を消え去ることは出来ない。

(それなのに……、俺の最後の罵声にもアイシャは冷静な言葉と助言を与えてくれた。兄上は今、幸せなのだろうか?)

 マクレーン伯爵家や夫人を避け続けて来たことを、今さら後悔しても遅い。もっと早く、兄の本心を聞いていたら彼等との関わりも今とは違うモノになっていたかもしれない。

 深いため息をひとつ溢し、キースは副長執務室の扉をノックする。

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