転生アラサー腐女子はモブですから!?

ナイトレイ侯爵家【ルイス視点】

(まさかキースの時代に『白き魔女』が復活するとは。こんな事になるなら、キースとアイシャの仲を、もっと早くに取り持っておくのだった)

 今さら考えても仕方がない事をツラツラと考えながら、ルイス・マクレーンは父の執務室の扉を叩く。

「おぅ! ルイスか。どうしたんだこんな時間に珍しいな。騎士団に厄介事でも舞い込んだか?」

 ルイスは、騎士団トップである父の命を受け、副長として外部からの依頼などをまとめ騎士に振り分ける仕事も担っている。父は豪快で大雑把な性格なため、細々とした仕事が苦手なのだ。結果としてルイスが裏方的な仕事を一手に引き受けている。

(まぁ、父に任せていたら終わる仕事も終わらなくなるから仕方がな)

「いいえ。騎士団は至って順調ですよ。今日は取り急ぎ伝えたい事が起きましたので参上しました。『白き魔女』が復活しました」

「――――っそ、それは誠か!?」

 腰掛けていた椅子を蹴倒し立ち上がった父は、ルイスに掴みかからんばかりの勢いで前のめりに叫ぶ。

(相変わらずの迫力だな。執務机まで倒れそうだ)

 熊並の大きな体躯に、太く低い声と歴戦の猛者をも黙らせる眼光で睨まれれば、父だとわかっていても冷や汗がでる。

「まずは、その殺気収めてください」

「あぁ、すまんすまん。それで?」

 蹴倒した椅子を戻し、ドカッと座り直した父に問われる。

「俺が以前からアイシャ嬢に剣の稽古をつけていたのは知っていますね? そして、キースに練習相手をさせていた事も」

 鷹揚に頷いた父を見て、話を続ける。

「今日、二人の最後の練習試合がありました。アイシャ嬢も、もうすぐ十七歳。十八歳で迎える社交界デビューに向け、剣の稽古を辞め、準備を始めるとのことでした」

「まぁ、一般的な令嬢であれば、致し方あるまい。よく今までリンベル伯爵が、剣を習うことを許していたのか不思議なくらいだ」

「そうですね。ある意味、アイシャは特殊な令嬢でしたから、リンベル伯爵も何か考えがあったのでしょう」

「確かにな。あの娘に初めて会ったときも度肝を抜かれたよ。わしの顔を見ても泣き出さん娘は初めてだった。それで、練習試合で何があった?」

「いつものように、キースにズタボロにされたアイシャ嬢は、最後に一撃を放った。そしてキースは吹っ飛び気絶しました。キースの持っていた長剣は真っ二つに折れていた。長剣で止めていなかったら、キースは大怪我をしていたでしょうね」

「あのキースがアイシャ嬢に吹っ飛ばされただと!?」

「えぇ、そうです。しかも、アイシャ嬢が持っていたのは護身用の短剣です。たとえ男同士の戦いでも、護身用の短剣で一撃されたくらいでは吹っ飛びませんよ。何かしらの力が加わらない限り、有り得ない現象です。直ぐに折れた長剣を調べましたら青白い光に包まれていました。一瞬で消えましたが、あれは魔力の残滓ではないかと」

「信じられん話だが……、とうとうナイトレイ侯爵家の悲願である『白き魔女』が復活したのだな。我が家に是が非にでも迎え入れたいところだが」

――――ナイトレイ侯爵家の悲願。

『白き魔女』の片翼である武の名家ナイトレイ侯爵家には悲しい伝承がある。
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