転生アラサー腐女子はモブですから!?
「父上! この手紙に書いてある四家の契約とは何ですか? アイシャは、この事を知っているのですか?」

「落ち着け! ダニエル。この手紙に書かれている内容が事実であるなら、リンベル伯爵家は、古の契約を守らねばならない。まさか、アイシャが『白き魔女』の力を目醒めさせるとは……」

 父に渡されたもう一枚の書簡を読み、ダニエルは愕然とする。そこには、『古の契約』の内容とこの契約が履行されるべき理由が記されていた。

「アイシャが白き魔女だとでも言うのですか? あんなの、ただのお伽話の中の存在ではありませんか。白き魔女の力をアイシャが有しているとでも言うのですか。そんな馬鹿気た話。子供騙しのウソを持ち出してまで、二家はアイシャをどうしたいのですか!!」

 畳み掛けるように発したダニエルの言葉に、父が重い口を開く。

「お前の言う通り、私達だってこれがウソであればと思う。ただ、ココに書いてある通りだとすれば、本当にアイシャは白き魔女の力を発動させた事になる」

「しかし……、どう考えてもあり得ない。二家が結託しているということは?」

「それはないだろう。今日、事の真相を確かめるためナイトレイ侯爵とウェスト侯爵と接触した。真っ二つに折れた剣を見せられたよ」

「真っ二つに折れた剣ですか?」

「あぁ、以前からアイシャが剣を習いに騎士団へ行っていたのはお前も知っているな? そこで、ナイトレイ侯爵家のキース殿と度々、手合わせをしていたようなのだ」

「知っていますよ。何故、父上はアイシャが剣を習うのを許していたのか不思議なくらいでした。ずっと生傷が絶えませんでしたから」

「あぁ。私も始めは辞めさせるつもりだったのだよ。騎士団の練習は過酷だと言うし、すぐ根をあげるだろうと。しかし、アイシャは弱音も吐かず、努力を続けていた。だからこそ、私もルイーザも社交界デビューの一年前までは自由にさせると決めていた。あの娘は、昔から少し変わった娘だったからね」

 確かに昔からアイシャは変わった娘だった。

 一般的な令嬢が好むドール遊びや絵本には全く興味を示さず、図書室に閉じこもり大人でもサジを投げ出す、分厚い歴史書や経済学、政治学、果ては法律書に至るまで読み漁っている姿は、怪異にすら映った。そして、剣を習い出したと聞いた時には、彼女が何を目指しているのか分からず、かなり困惑したものだ。

 今、考えればアイシャが興味を持ちやりたがるモノには、全て意味があるのだと理解はしている。

『勉学は自分のためにするもの。将来の自分自身にする投資』

 彼女の今までの行動は、全てこの言葉を実現するためだと理解はしていても、毎日傷だらけで帰ってくる様子は、見るに耐えなかった。何度、辞めさせるように父に進言したかわからない。

 ただ、今でも不思議に思う。あの言葉を言った時、アイシャはまだ三歳だったのだ。言葉をポツポツと話し出したばかりの子供から出る言葉ではなかった。ちょっと大人びた考えを持つ子供というレベルではない。

『将来の自分自身にする投資』

 まるで、未来のビジョンが見えているかのような行動と言動をとるアイシャ。

(まさか、本当に未来が見えているなんてことは……)

 馬鹿げた考えがダニエルの頭をよぎり、慌ててそれを打ち消すように頭を振る。
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