リリィ=ブランシュはスローライフを満喫したい!~追放された悪役令嬢ですが、なぜか皇太子の胃袋をつかんでしまったようです~
「やめて!」
「うるせー!」
「きゃあっ」
腕を振り払われて地面に尻もちをつく。
「その髪、もしかして……」
男の視線に気づいてはっと頭に手をやった。帽子がない。倒れた拍子に脱げたのだ。
「おまえか、うわさの悪女ってやつは」
鼓動が速まる。こんなところまでうわさが届いていたなんて。
「悪女? なんのことかしら」
「とぼけても無駄だ。俺は確かな筋から聞いたんだぞ」
男は王都でのうわさを声高に話し出した。
「第四王子の許嫁でありながら、夜な夜な男漁りを繰り返したり他の令嬢に卑劣な嫌がらせをしたりして、とうとう追放されたんだってな」
うわさはまさに男が今言った通りだ。真実とはかけ離れているが、ここで否定してもなんの意味もなさないことはわかっている。
「なんのことかおっしゃっているのかさっぱりわかりませんわ」
平然と立ち上がり、スカートの砂ぼこりを手で払ってから顔を上げた。
「それよりも、相手が子どもだからと労働の対価を踏み倒す方が、よっぽど卑怯でいやしい人間だと思いますが」
「なにを!」
怒りで顔を真っ赤にした男が腕を振り上げた。殴られる、と身構えた瞬間、突然剣の刃が割り込んできた。
「手を下ろせ」
低い声が聞こえた。
「どんな理由があろうとも、か弱い婦女子に暴力を振るのはいただけないな」
青ざめた男がそろそろと腕を下ろした。
横を見ると剣の主は思わず見上げるほど背が高かった。黒い髪は襟足で小ざっぱり整えられているものの、前髪が長くて目が完全に覆われている。そのせいで年齢はよくわからない。リリィより少し年上ではないだろうか。
身なりは悪くないが、詰襟のボタンは胸もとまでくつろげて、袖もまくり上げているので。騎士、というよりも雇われ護衛といった風体だ。
「くそっ、払えばいいんだろ!」
男はそう言って小銭を投げつけて去って行った。
「うるせー!」
「きゃあっ」
腕を振り払われて地面に尻もちをつく。
「その髪、もしかして……」
男の視線に気づいてはっと頭に手をやった。帽子がない。倒れた拍子に脱げたのだ。
「おまえか、うわさの悪女ってやつは」
鼓動が速まる。こんなところまでうわさが届いていたなんて。
「悪女? なんのことかしら」
「とぼけても無駄だ。俺は確かな筋から聞いたんだぞ」
男は王都でのうわさを声高に話し出した。
「第四王子の許嫁でありながら、夜な夜な男漁りを繰り返したり他の令嬢に卑劣な嫌がらせをしたりして、とうとう追放されたんだってな」
うわさはまさに男が今言った通りだ。真実とはかけ離れているが、ここで否定してもなんの意味もなさないことはわかっている。
「なんのことかおっしゃっているのかさっぱりわかりませんわ」
平然と立ち上がり、スカートの砂ぼこりを手で払ってから顔を上げた。
「それよりも、相手が子どもだからと労働の対価を踏み倒す方が、よっぽど卑怯でいやしい人間だと思いますが」
「なにを!」
怒りで顔を真っ赤にした男が腕を振り上げた。殴られる、と身構えた瞬間、突然剣の刃が割り込んできた。
「手を下ろせ」
低い声が聞こえた。
「どんな理由があろうとも、か弱い婦女子に暴力を振るのはいただけないな」
青ざめた男がそろそろと腕を下ろした。
横を見ると剣の主は思わず見上げるほど背が高かった。黒い髪は襟足で小ざっぱり整えられているものの、前髪が長くて目が完全に覆われている。そのせいで年齢はよくわからない。リリィより少し年上ではないだろうか。
身なりは悪くないが、詰襟のボタンは胸もとまでくつろげて、袖もまくり上げているので。騎士、というよりも雇われ護衛といった風体だ。
「くそっ、払えばいいんだろ!」
男はそう言って小銭を投げつけて去って行った。