カンパニュラ

「もうひとつ大きな問題があるが、まずひとつだけ聞く。イエスかノーで答えろ」

男が私の瞳から意思を吸い上げるかのように強い視線を私に向けた。

「あんたは鈴になりたいんか?」

何なの、その質問…

「ノー」
「はははっ、ほなええやないか。鈴がちやほやされていようが、金持ちと結婚しようが関係あらへんやん。なーんにも気にすることないやん。なんでそんなに‘鈴は’‘鈴は’って言う必要がある?それで勝手にイライラしているのが最大の問題点やけど、簡単な問題でもある。あんたが鈴になりたいんとちゃうなら」
「…私は私だもの、鈴になりたいはずないでしょ?」
「そうやな、その通り。ほな、鈴がやりたい放題でも鈴は鈴なんやから、あんたがイライラすることもなければ、物を投げつけることも、罵声を浴びせることもないやろ?」
「私は私、鈴とは違うの」
「そうやな」
「でもずっとずっと、鈴の方が何でも出来るのが鼻につくのよ」
「鈴も最初は出来ひんかったけど、練習やら稽古やら努力をしたんやろうな。それが鈴の生きてきた過程で、仕事や結婚は結果…さっきの話と全く同じこと。過程がすっからかんでは結果は付いてこない。もう一度聞く。あんたは鈴になりたいんか?」
「ノー」
「毎朝毎晩それを唱えろ」
「…私は鈴になりたいのではない…って?」
「そうや。鈴の方が、鈴の方がっていう思いを‘私は鈴になりたいのではない’に塗り替えろ。それだけでお前は自由や。まあ、元々あんたの勝手な思いやけどな」
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