カンパニュラ

手紙を受け取ってから3週間ほど経っているが、簡単ながらも気持ちを文字で綴ったことで少し晴れ晴れとした気分だった。

「鈴」

マンションを出たところで呼び止められて身構えた私を、陽翔さんは繋いだ手に力を込めて半歩後ろに引いてくれた。

「沖田さんもご一緒でしたか。こんにちは」
「こんにちは、小野田さん。ここで鈴を待っておられたのですか?」
「ええ」

白いダウンコート姿の姉と目が合うと

「…何かあった?」

と聞く。だって今までここに来たことはなかったのに…どうしたんだろう。

「一言お祝いを言いたくて。鈴、婚約おめでとう。お幸せにね」

それだけ言うとくるりと後ろを向いて早足で立ち去ってしまった姉に、ありがとうと言う間もなかった。

「そんなに慌てて行っちゃわなくてもいいのに…」
「またいつか会えるよ。きっとすぐだ」

チュッ…陽翔さんのキスを合図に私たちも歩き始める。でも姉の行動が気になった私はケーキ屋さんに入る前、父に電話をかけた。

‘そうか。綾も毎週、臨床心理士さんのカウンセリングを受けているんだ。まだ1ヵ月だけれど、何か思うことがあったのかもしれないね’
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