Beautiful moon

② 知らない時間

午後9時を過ぎ、お酒も進んだこともあって、先生との会話もまるで学生の頃に戻ったように弾む。

『今日の同窓会の会場が、高木の店?』
『高木君が父親から引き継いだお店だそうですよ』

先生は驚きの後、何やら”合点がいった”という顔をする。

『…なるほどな。そういうことか』
『そういうこと?』
『いや、高木からのハガキに、何か俺に報告したいことがあるって書き添えてあったから、何だろうとは思ってたんだ。そうか、アイツが自分の店をね』

先生は野球部の顧問だったので(と言っても、野球経験の無い先生はサブ顧問だったけど)、当時エースだった高木君とは、今も時々連絡を取り合う関係らしく、今回の同窓会の知らせも、幹事の子から高木君経由で先生に送られてきていた。

『…多分、違うと思いますよ、高木君の報告』
『ん?』
『先生に伝えたかったのは、お店のことじゃないかも』

私の知らない7年間、ほんの少しでも繋がりのあった高木君へのヤキモチから、今日知り得た彼のサプライズをここで公開してしまう。

『結婚するそうです』
『結婚!?』
『正確にいうと、高木君達…かな?お相手は徳永さんって、先生も知ってますよね?』

相手の女性も同窓生であることを伝えると、先生はことさら嬉しそうに微笑む。

『そうかアイツらがいよいよ…』
『二人のこと、知ってたんですか?』
『ああ、高木が大学の時から徳永と付き合ってるのはな。奴が試合中の怪我がきっかけで野球を辞めたあとも、ずっと徳永が傍にいてくれたんだ』

感慨深そうに、3杯目のジンライムを口にする。

そんな教え子たちのサプライズ報告を喜ぶ先生の、そのグラスを持つ左手に自然と目が行ってしまう。

本当は先生に会った瞬間からずっと気付いていた、その薬指に光る銀色のリング。

そもそも、それを聞くために誘ったようなものだ。
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