Beautiful moon

③ 偽りの情事


『先生、大丈夫ですか?』
『…ん…あぁ……』

午後11時を過ぎ、私は泥酔した先生を、バーの上に併設されているホテルの一室に連れて入った。

部屋に入り、入口付近で座り込む先生を置いて、自分と先生の荷物を先に部屋の中に運ぶ。

日曜の駅近にあるビジネスホテルの一室。

シングルやツインは埋まっていて、ダブルベットの部屋しか空いていなかった。

ううん。

取ってつけたような陳腐な言い訳はよそう。

敢えて、この部屋を意図的に取ったのだ。

部屋の中央に、室内のほとんどを埋め尽くすように存在してるダブルベットを確認すると、部屋の明かりはつけずベットサイドのダウンライトのみを点けてから、もう一度入り口に戻る。

壁にもたれて座りこむ先生を、抱き起こすように立ち上がらせると、先生の腕を自分の肩にまわし、脇を支える。

『足元、気を付けてください』

自分の身長以上の先生に狭い肩を貸し、引きずるように歩くと、さっき確認したベットの上に、先生を下ろした。

大仕事を終え一息つくと、閉めきった部屋が少し蒸し暑く感じて、すぐ横の壁に備え付けられている空調のパネルをみつけると、エアコンの冷房をつける。

『…ん…みつ』

ふいに、ベットの上の先生が、苦し気な声を漏らす。

飲み過ぎたアルコールの為に、喉が乾いたのかもしれない。

『水…ですか?今、持ってきますね』

さっき、下のロビーで買ったばかりのミネラルウォーターが鞄にあることを思い出し、取りに離れようとすれば、ふいに腕を掴まれる。

振り返れば、片肘を着いた状態で上半身を起こし、うつろな眼差しで、こちらをじっと見る先生。
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