Beautiful moon
『毎年、4月から5月頃にかけて咲く花なの』
透き通るような肌は、化粧をしていないにもかかわらず美しく、その姿に何故か目を奪われ、一瞬足りとも目を逸らすことができない。
彼女はこちらを見ずに、風の吹いてくる方を向いて、一面の花を愛しそうに眺める。
『春の花って言うと、みんな桜を思い浮かべてしまうでしょう?でも私はやっぱりこのネモフィラが一番好き』
そう言ったあと、何故かフッと小さく笑い、こちらを振り返る。
『でもこれって”先生”としては、やっぱり失格かしら?』
『…え』
”先生”
今、確かに彼女は自分のことをそう言った。
途端に胸の奥がザワザワと、騒めき出す。
そんなわけ無いと思う一方で、相反する確証めいたものを感じていた。
この女性は、まさか…
『…みつきさん?』
声に出して口にすれば、何故かスンナリと腑に落ちる。
彼女は肯定も否定もせず、ただ黙って微笑むだけ。
自分の中での彼女は、勝手にスラリと背の高い大人の女性をイメージしていたから、想像していたよりずっと小柄で、美人というよりも可愛らしい感じの印象が、意外だった。
…と、ここで初めて違和感を感じる。
私はどうして、こんなにも確信しているんだろう。
美月さんはもう亡くなられているし、自分にとっては会ったことも見たこともない人。
この女性がそうだなんて、わかるわけがないのに。
…それに、何よりこれは自分が見ている”夢”なのだから。
ん?…夢?
これが夢だって、どうして私…
ハタとその疑問にたどり着くと同時に、女性がクスクスと笑い出した。