Beautiful moon
『人は大切な人を亡くした時、すごく悲しくて毎日その人のことを思い出してしまうけど、普通は時間の経過と共に心の中で少しずつ変化していくものなのよ。だって生きてるその人が生き続けるためには、亡くなった人のことばかりを考えているわけにはいかないもの。だからね、大抵はある一定の時間が経過すれば、その想いは少しずつ風化していくものなのだけど…』

一旦言葉を区切り、次に独り言のように続ける。

『透の想いは、今もずっとあの時のまま…何も変わってないの』

海からの風に揺らめく髪を抑えて、くるりと振り返る彼女は、美しくも悲しい笑顔を見せる。

『愛されちゃってるでしょう?私』

薄闇の中、サラサラと凪る水面をバックに、自慢げにそうおどける美月さん。

その切なすぎる光景にただ言葉を失い、同時に思考は、彼女の幻影を追い求め続けていた先生を想う。

彼女の見立てが正しいならば、先生が美月さんに”逢える”のは、先生が美月さんの死を受け入れ、【彼女のいないありふれた日常】が、訪れること。


あるいは…


一瞬、もう一つの答えが頭をよぎり、慌てて否定する。
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