Beautiful moon

⑥ 明晰夢(月下美人の森)




―――濃霧が吹き去り次に現れたのは、漆黒の闇に満天の星が降りそそぐ、深い森の中。

夜空に瞬くその星々よりも更に強く存在感を表すのは、頭上に堂々たる姿を見せて君臨する、美しい満月。

ここが夢の中だからか、まるで映画の世界のように、碧く澄んだ闇夜に強く光を放つ月が、異様に大きく近くに見える。

その月の放つ柔らかな月明かりの下、周辺を生い茂る森に囲まれた小さな窪みのような円形の広場の中央に、”その花”は、悠然と存在していた。


『美園さんは、”月下美人”って花は知ってる?』


例によって、真っ白なワンピースをまとった美月さんが、すぐ隣に立っていた。

流石にもう、この非現実的な世界に驚くこともなく、ごく自然にその質問に答える。

『名前くらいは聞いたことがあります…実物は見たことありませんけど』

不思議なことに、今までいた場所の中で一番暗いというのに、彼女の白い服と肌は闇夜の中で月光に映え、鮮やかに光を放っているようにさえ思えた。

『そう』

美月さんは静かに微笑むと

『なら、もっと近くで見ましょうか』
『え?わっ』

言うや否や、彼女は私の手を引き、その花の咲いている中央へと歩き出す。

今いるこの場所がどこなのか、季節はいつなのかも全くわからないけれど、足元に茂る草は青々と膝辺りまであり、例の如く彼女の歩く場所が”道”とならなければ、簡単には進むことができそうにない獣道。

結局中央の花のある場所へは、最初にいた場所から数十メートルはあったけれど、あっという間にたどり着く。
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