Beautiful moon

⑦ そして新たなプロローグ





―――午前6時2分


部屋の一角にある細長い窓のカーテンの隙間から、光が溢れているのに気づくと、徐ろに椅子から立ち上がった。

気怠い身体のまま窓際まで移動し、遮光の強い厚手のカーテンを少しだけ開けて眼下に広がる通りを見渡せば、すでに世界は動き始めている。

眼下に見えた駅のホームには、学生や会社員の姿がちらほら。

忙しない月曜日の朝が始まっていた。

シンとした空気にカサリと身じろぎする音がし、ベットの方を見れば、ちょうど先生が頭を抑えながら身を起こすところだった。

『っ…痛…』

二日酔いの頭痛に表情を曇らせながら、細く適度に引き締まった上半身があらわになる。


『おはようございます、先生』


既に寝起きでは無いスッキリとした声音でそう言うと、淀んだ部屋の空気がかすかに震えた。

『…木…崎?』

当の本人は一瞬固まり、そう口にするや否や一気に目が冷めたように先ずは周りを見て、ここがホテルの一室であることに気が付き、次にその身に何も着けていない自らの状態に愕然とする。

『まさか…俺、木崎と』

独り言のようにつぶやき、その言葉の無神経さに気づいたのかすぐに口を抑える。

『昨日のこと、覚えてないですか?』
『…いや、ちょっと待ってくれ』

酔っていたとはいえ数時間前の情事の痕跡は、女性だけではなく男性にだって鈍く残っているはず。

ただ、まだ起きて間もない先生の認識は、それは私では無く”美月さん”との行為であるはずなのだから、混乱が生じても仕方がないのかもしれない。

覚醒したばかりの混濁した頭を整理し、美月さんがもうこの世に居ないことを思い出すと、その現実に落胆するとともに、昨夜の相手が私であることにようやく気がついたよう。

『そうか…だよな』

先生の表情とその言葉で、一連の心の変動が目に見えるように伝わってきた。
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