Beautiful moon
『木崎、申し訳ない』

記憶がないことで、先生は私の合意無く強引に行為に及んだと誤解したようで、ベットの上で身を正すと、深く頭を下げる。

『いや、申し訳ないじゃすまされないことを、俺は木崎に』
『先生、頭上げてください』

その憔悴ぶりは、私がそう仕向けたのなど、微塵も疑ってはいないようだった。

それだけに10歳近くも年下の相手に真摯に頭を下げる先生に、どうにも居た堪れなくなる。

『無理やりとかじゃ無いです。先生はかなり酔ってましたけど、私はそこまでじゃなかったし…本気で嫌なら抵抗して逃げることだって』
『違うんだ、そういう問題じゃない』

私の言葉を遮ると、苦しそうな声音で続ける。

『俺は、自分の生徒であるお前を…』

濁す言葉の続きは、”亡き恋人(美月)の代わりとして抱いてしまった”…そう続いたのかもしれない。

酒に酔っていたとはいえ、無意識に自分を慕う教え子と関係を持った自分自身を許せないのだろう。

苦悩する先生を前に、いっそ真実を話してしまいたくなる衝動を抑える。


”美園さん…透のことお願いします”


脳裏にまだ残る、彼女の透き通るような澄んだ声音。

その心の内側から溢れ出る切なる願いが、私を思い留まらせる。

『…』

しばしの沈黙の末、先生は何か意を決したように顔を上げると

『木崎』

私の名を呼んだ。

『はい』
『今、交際してる人とか、その…好きな男はいるのか』
『…いえ』

想定外の質問に、さすがに”眼の前のあなたです”とは言えずに『いません』と短く答えた。

『そうか…なら』

一呼吸置いた後、真剣な眼差しで私をみつめ、こう言葉を続ける。


『俺にこの責任を取らせてくれないか』




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