「急募:俺と結婚してください」の手持ち看板を掲げ困っていた勇者様と結婚することになったら、誰よりも溺愛されることになりました。
 私は元気がない時に彼がいつもそうしてくれるようにして、彼の手を握った。シリルは大きな手で私の手を握り返すと、はあっと切なげに大きくため息をついた。

「ありがとう……ああ。十月間か」

「シリル。もっと早くに結婚式をしたいなら、私は構わないわ。マダムの言う通りに、レースのヴェールを別のものにすればきっと期間も短く出来るはずよ」

 私の選んだドレスのヴェールは特別製で、異国の有名な職人に依頼し長さなども私合わせで、計算して作って貰えるらしい。

 一目見ても美しくて、付けた感じも気に入っているのは確かだけど、大事な夫のシリルを悲しませてまであのヴェールを着けたい訳でもないのだし。

「……良いんだ。俺は我慢出来る。フィオナを愛しているから。我慢する。大丈夫。愛しているから、十月間なんて軽く我慢出来るんだ」

 自分に言い聞かせるように繰り返したシリルは、私が思っていたよりもだいぶ頑固みたいで、何度言ってもあれで良いと言うばかりだった。

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