「急募:俺と結婚してください」の手持ち看板を掲げ困っていた勇者様と結婚することになったら、誰よりも溺愛されることになりました。

15 行方

 理由のわからないざわざわとするような胸騒ぎの理由は、すぐに知れた。

 早朝、眠っていたところに寝室の扉が叩かれたので、私は何事だろうと目をこすりながら起き上がった。

 もし、私付きの新人メイドが起こそうとしてやって来たのなら、彼女の役目で勝手に入ってくるんだけど、もしかしたら異性の執事のアーサーが危急な要件で私を呼んでいるのかもしれない。

「……はい?」

 扉を開けたら予想外に、夫のシリルだった。

「フィっ……なんて、格好を……あ。ごめん。俺が眠っているところを、起こしてまで、呼んだんだけど……そうだった」

 軍部で働く私の夫シリルは、昨夜私の眠る前まで帰宅はしなかった。仕事が遅くなり帰宅が深夜になる時などには、いつも遅くなるからと事前連絡があるので、私も気にせずに眠っていた。

 けれど、いつもなら家に帰ってきたらすぐに着替えてしまう彼は、仕事着である軍服を着たままだ。

「……シリル……? どうしたの? 何か……あったの?」

 私は夫シリルのいつもならありえない早朝の訪れに、どうしようもなく不安になった。

 なぜかというと、ある人の顔が頭をよぎったからだ。

 ささやかなお礼にと作ったお菓子は夜に取りに来ると約束していた日も、一昨日も昨日も……あれだけ入り浸っていたルーンさんは、ロッソ公爵邸に来ることはなかった。

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