「急募:俺と結婚してください」の手持ち看板を掲げ困っていた勇者様と結婚することになったら、誰よりも溺愛されることになりました。
「あの、ロッソ様がこのお店の前で、あんなことをしていたのは、何故ですか? 魔王を倒したのですから、世界の誰からも英雄と呼ばれるでしょうに」

「あ。シリルで良いよ。はははー……そこは、気になるよね。そりゃ、そうだよね」

 困ったように頭を掻いて勇者様……シリルは、ため息をついた。

 酒場の灯りの中で見る吟遊詩人(ぎんゆうしじん)が謳(うた)う通りの彼の容姿は、凛(りん)としていて優美(ゆうび)。この目で手持ち看板を持っていた彼を見た私だって、こんな人があんなことをしていたなんて、信じられない。

「というか、お嬢様。あんたは、どこの誰? どうして、こんな庶民の飲み屋街に居た? てか、なんであんな怪しげな看板を見て、こいつと結婚しようと思ったの?」

 ルーンさんの鋭い指摘に、私は息を呑んだ。どう説明すれば良いのか、わからない。ジャスティナに複雑な思いを持つ私の気持ちを、正直に言って良いものかどうか。

 シリルがしたことだって、十分に奇想天外(きそうてんがい)だけど……それに応(こた)えた私だって、人のことを言えない。

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