「急募:俺と結婚してください」の手持ち看板を掲げ困っていた勇者様と結婚することになったら、誰よりも溺愛されることになりました。
「あの文言(もんごん)を考えたの、そこのお前だろ……怪しげって、それはひどくない?」

「あんな看板持って、しかも暗い雨の日に呼びかけて、それに乗ってくる女が居るなんて思わなかった。まあ、別に言いたくないなら、良いけど? 俺は関係ないし」

「あのっ……私はフィオナ・ノワール。ノワール伯爵家の二番目の娘です。私……その、デビューして一年経っても誰も声を掛けて貰えなくて……結婚を焦ってたんです。そうしたら、シリルさ……シリルが、呼び掛けてて……」

 私の現在の状況を、まだ関係の深くない人に言えるところまで言ったら、彼らは目を合わせて何度か頷いた。

「へー……社交界デビュー一年で縁談なし、ねえ。全然、焦ることなんてなさそうだけど……あの」

「俺には、凄いラッキーだった! ルーン。聞いた? ノワール伯爵って言えば……ベアトリスの父さんの、ヴィオレ伯爵と犬猿の仲の人だろ? 最高だよ……俺には、この人しか居ないんだ」

 ルーンさんは自分の話を遮(さえぎ)ったシリルの方向を向いて、嫌な顔をしつつ彼が喜んだ理由を察したのか、目を細めて頷いた。

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