「急募:俺と結婚してください」の手持ち看板を掲げ困っていた勇者様と結婚することになったら、誰よりも溺愛されることになりました。
 言葉もなくじっと見つめ合っていた私たち二人にしびれを切らしたのか、ルーンさんの声がした。

 そうだった。

 さっきまで、逃げられない場所にまで追い詰められた私は、絶望的な気持ちで居たのに、シリルが助けてに来てくれたことが嬉しすぎて、この場になぜ自分が居るかも忘れてしまっていた。

「わ! ルーンさん! 結界から、出られたんですね。良かった!」

 声がした横の方に目を向けると、渋い表情をしていたルーンさんはなぜか扉の方を指し示した。

「おい。フィオナはこの部屋の中を、何も見るなよ。シリルは敵に対し人の心を持たないから、そういう奴だから……世界最強の勇者に、選ばれているから」

 確かにシリルはさっき、私に十秒目を閉じていてと言った。彼は私にそれを見せたくないから、そう言ったんだ。

 今は私を抱きしめているシリルの大きな体が視界のほとんど占めているけど、その向こうに見える光景は……ううん。それだけのことをしようとしたし……物を知らない私だって世の中が、綺麗事だけで済むなんて思っていない。

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