「急募:俺と結婚してください」の手持ち看板を掲げ困っていた勇者様と結婚することになったら、誰よりも溺愛されることになりました。

19 危機

 恋愛の最終到達点である結婚までしておいて、いまさら何を言っているんだと言われそうなんだけど、私はその時に夫シリルの顔を初めてまっすぐに見ることが出来たと思う。

 吟遊詩人がその部分を強調して謳(うた)ってしまうくらいに、その顔は端正に整っているし、彼の姿を見ただけで一目惚れする女性だって多いだろう。

 けれど、今間近にある彼の青い目の中。

 そこには、今まで直視(ちょくし)することが出来なかったくらいに、私への確かな愛情が溢(あふ)れていた。

 どうして。彼が言葉に出さずとも、こんなにもはっきりと見えているものを、私は見えないものとして疑えたのだろう。

 私が好きなシリルは、私のことを好きだ。二人の間にある気持ちを疑う余地なんて、何もないくらいに。

「……おい。そろそろ、もう良い? そちらのお熱い新婚夫婦。優しい俺は空気を読んで、だいぶ待ったつもり」

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