「急募:俺と結婚してください」の手持ち看板を掲げ困っていた勇者様と結婚することになったら、誰よりも溺愛されることになりました。
 そこに偶然馬車で通りがかった私が彼の姿に目を留めて、落ち込んでいた気分を少しでも気を紛らわせたかった。

「フィオナは、俺と出会ってこうして結婚したことは、奇跡みたいな偶然が重なったと思っていると思うけど……俺は人の出会いって、全部そういうものだと思うよ」

「……どういうこと?」

「誰かとの出会いに、良いも悪いもないだろ? 世界にはこんなにも人が溢れているのに、そこで出会えた一人と結婚出来たのなら……それは、全部奇跡と言えると思う。だから、俺たちの出会いって、形的には珍しいかもしれないけど特に特別でもない。夜会で俺がフィオナを見かけて、一目惚れしてダンスに誘うのと同じってこと」

「何、言ってるの。シリルが私に、一目惚れなんて……しないよ」

 目を閉じてふふっと笑った私の体を、シリルは抱きしめた。

「するよ。別に俺もエンゾにフィオナは俺にピッタリだって言われただけで、好きになった訳じゃないし」

「うん。わかった。もう……眠い……明日の朝は……シリルの寝相悪いの、見れるの楽しみだな……」

 私は本当にもう眠くて……眠くて。自分が何を言っているのか、わからないくらいになっていた。

 本当に色々あって体も疲れていたし、今は夜で安心できる場所で、もう眠らない理由がわからないから……。

「うん……俺は眠れないけど……良く寝て……寝相は、また結婚式終わってから楽しんで……あれ? フィオナ……寝ちゃったのか」
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