「急募:俺と結婚してください」の手持ち看板を掲げ困っていた勇者様と結婚することになったら、誰よりも溺愛されることになりました。
 彼の髪は見るからに洗われた後だし、湯上がりの様子だった。ここからまた、冷水を浴びなければならない理由ってあるの?

 シリルはなぜか、心底不思議に思った私の言葉にうるっとした目になった。

「……うん。ごめん。お願い……すぐに戻るから……本当にすぐ……」


◇◆◇


「どうして……あの時に、私はシリルが見えたのかな……視界の悪い雨の日だったのに、シリルだけはっきり見えた気がしたの」

「ん? ……俺が、看板持ってお嫁さん募集していた時?」

 邸の主人に相応しいほどの大きなベッドの中でシリルは私の体を抱きしめつつ、そう言った。

 先ほど冷水を浴びて戻ってきた彼は、かなり体が冷えていた様子だったけど、先にベッドに入っていた私を抱きしめてだいぶ温まって来た。

「いつもなら、絶対に気がついてなかったと思うんだけど……あの時は、馬車の中から、シリルの姿が見えて気になって……」

 安心出来る場所で眠りにつけると思えたせいか、うとうととしてきた私は目を閉じてそう言った。

 あの時のシリルはやけになった必死さで、逆に通行人の人たちに引かれて無視されていた。

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