「急募:俺と結婚してください」の手持ち看板を掲げ困っていた勇者様と結婚することになったら、誰よりも溺愛されることになりました。
 ベアトリス様については世界救済の仲間であるルーンさんを身勝手な理由で結界に閉じ込めたことと、結果的に守護結界を張れなくなってモンスターが王都にまでやって来る危機を招いたことが大きく問題視されていて、今までのように、国を守る存在だからと特に優遇されてわがままいっぱいには生きられなくなってしまうらしい。

「あとは……ヴェルデ侯爵は、一人息子の嫡男を捨てた。体の怪我が治り次第、貴族としての特権をすべて剥奪の上、国外追放だと……」

 ルーンさんは眉を寄せて言いにくそうに言ったけど、これは貴族の家では良くあることだ。

 問題のあった人間を、尻尾を切り落とすように捨ててしまう。そうすれば、名のある貴族という本体は取り潰されること……殺されてしまうことをまぬがれるから。

「……あの人にとっては、それが一番つらいことでしょうね」

 私はそう思った。今まで社交界では名のある侯爵家の後継ぎ息子だと誰からも羨望の眼差しで見られ、何不自由なく生きてきた人だ。

 贅沢に慣れた彼が何も持たずに、生家ヴェルデ家の名前も力も及ばない国外に放り出されるなら、彼にとって一番の罰になるだろう。

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