「急募:俺と結婚してください」の手持ち看板を掲げ困っていた勇者様と結婚することになったら、誰よりも溺愛されることになりました。
 そして、公爵位を持ってはいるけど、気軽な冒険者の格好を好んでいるのか、今着用しているような堅苦しい貴族服を着ているのを見たのは、私の家へ両親に挨拶をしに来た時くらい。

 どちらにしても、シリルは辺りを払うくらいにまばゆく姿形が良い。あんな経緯(いきさつ)がなければ、こんな私なんて彼と話したい令嬢の順番待ちの列に押されて、口を利くことすら出来てなかったはずだ。

「あ。うん……晴れてベアトリスから完全に逃げ切り大成功だから、俺もそろそろ自分の役目とか果たそうかなって」

 百年周期で現れる魔王が居れば、そのたびにそれを打ち倒す勇者も現れる。見事シリルは、それを果たしていた。

 魔王討伐を成功させた勇者は、王女と結婚したり、聖女と結婚したり、一国の重鎮となったり、世界の救世主として華々しい道を歩むことになる。

 とは言え、シリルはそういうことを望んでない欲の薄そうな様子だったけれど、私と偽装結婚して聖女ベアトリス・ヴィオレに結婚を迫られることもこれでなくなって、いよいよ成功者としての道を歩み出すことにしたらしい。

 だから、結婚相手はシリルにとって、誰でも良かったんだわ。

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